最新記事
観光

「SDGs全てに貢献できる唯一の産業」観光が21世紀のグローバルフォースと言われる理由

2024年3月12日(火)11時30分
※JICAトピックスより転載

女性の社会進出にも観光が一役

進行補佐・JICA広報部・伊藤綱貴さん(以下、伊藤) 世良さんは2023年だけで6カ国に旅行したとのことですが、旅先ではどんなことをされますか?

世良 まず、その土地特有のご飯を食べます。現地で有名なアクティビティも体験しますね。

浦野 JICAはヨルダンのサルトという古都で現地の人の家を訪れ、一緒に料理をしたり、ローカルな食事を食べられたりする体験プログラムを行っているんですよ。

jica240312_jordan.jpg

サルトで地元の女性が開催する料理教室を観光客が体験する様子(写真の一部を加工しています)(西山徳明さん提供)

浦野 ヨルダンといえばペトラ遺跡が有名ですが、ヨルダン政府からはヨルダンには他にも魅力があり、古都サルトの「歴史的な街並みを観光客が散策するようにしてほしい」という提案がありました。ただ、散策するだけでは経済的な利益は生まれませんから、体験型商品をどう戦略的に町にちりばめるかを考えます。イスラム圏の女性は外で働くことが難しいのですが、観光客向けに料理体験を提供すれば女性に収入が入ります。お父さんが稼ぎ頭で、お母さんは子どもの靴下を買いたいけれど、お父さんが反対して買えないといった時、観光客を相手に自ら開く料理教室で得た収入で子どもの靴下を買えます。観光開発が女性の社会進出を後押ししているのです。

世良 私たちが観光することが、現地の女性の社会進出につながるのですね。

浦野 UNWTOは「観光はSDGsの17のすべてのゴールに貢献できる唯一の産業」だと言っています。サルトのこの事例では、女性が収益を得られるようにしたことで「SDG目標5:ジェンダー平等を実現しよう」に貢献できました。現在、JICAはUNWTOと共に、観光プロジェクトにとっての辞書のような「ツールキット」を作っています。例えば「女性の社会進出」ならば、ツールキットのSDGs5の項目にさまざまな事例が載っているため、参考にしたり、指標を立てられたりします。これは日本の観光開発でも使えるものです。

jica240312_sdgs.jpg

世良 これから観光の未来は、どう変わっていくんでしょうか。

西山 これから観光は特別なものでなく、途上国、先進国に関係なく、世界中の人が当たり前に旅をするようになるでしょう。あらゆる産業の人が観光を通じて自分たちの産業を発展させていくという、観光が広がりを持つ時代になっていくと思います。

浦野 観光産業はますます重要な産業になると思います。JICAとしては地球規模で途上国への観光開発支援をしながら、その知見が日本の観光開発にも生かせるように活動していきたいと思います。

世良 途上国、先進国に関係なく、お互いの知見を共有していくことが大切ですね。「バランスの取れた観光開発」が大事だということにも納得しました。これからは私も有名な観光地だけではなく、まだ知られていない場所を探して行ってみたくなりました。

(関連リンク)
食料価格高騰の3要因とは? 日本とアフリカにみる「栄養危機」【世界をもっとよく知りたい!・1】
なぜアフリカでDXが進むのか?生成AIのメリットとデメリットとは【世界をもっとよく知りたい!・2】
持続可能な観光開発|JICAの事業について
ウトゥクバンバ渓谷上流地域における文化的景観の持続的な開発促進プロジェクト(ペルー)
観光セクター開発事業(ヨルダン)
JICAとUN Tourismの連携について

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米6月求人件数、27.5万件減 関税不安で採用も減

ワールド

再送米中、関税一時停止継続で合意 首脳会談の可能性

ワールド

ガザで最悪の飢餓も、国際監視組織が警告 危機回避へ

ビジネス

米6月モノの貿易赤字、2年ぶりの低水準 輸入減で8
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    タイ・カンボジア国境紛争の根本原因...そもそもの発…
  • 5
    グランドキャニオンを焼いた山火事...待望の大雨のあ…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「出生率が高い国」はどこ?
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 5
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 6
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中