最新記事

舞台

「70年代が蘇る...」ロック青春映画『ペニー・レイン』がブロードウェイで復活

The Power of Music

2022年12月9日(金)12時17分
ローレン・ジエラ

ウィリアム役に抜擢されたケイシー・ライクスは、「映画で目立たなかったキャラクターも、ミュージカルでは見せ場がある」と説明する。

ライクスは当初、ウィリアムを映画版とそっくりに演じなければというプレッシャーに苦しんだ。だがあるとき「ふとキャメロンを手本にすればいいんだと思い直し、それが突破口になった」。

そんな若者にクロウは記者時代の体験談をいくつも語り聞かせ、ライクスはクロウのしぐさや「彼が人に与える印象」を役作りに生かした。

クロウは姉に話を聞いて、70年代を振り返った。「映画で描いたほど当時の生活は甘くなかったと気付き、そこから脚本や劇中歌が育っていった」と彼は語る。

舞台ならではの臨場感

いい舞台はいい音楽に似て、出演者と観客を強い感情の絆で結ぶ。「だからこそ人は失恋すると音楽に救いを求めるのだし、音楽は失恋の痛みに効く」と言うのは、ウィリアムの母エレイン役のアニカ・ラーセン。

「ミュージカル俳優は、演じながら感情の高みに上り詰める。そこではもはや言葉で思いを語ることができないから、思いを歌に託すの」

作曲を担当したトム・キット(『チアーズ!』)は、クロウを「普段着の詩人」と呼ぶ。「彼の映画は私の心にずっと響いてきた。人間らしさと人間同士の結び付きを、クロウは教えてくれる」

音楽業界を取材しながら自分を発見していくウィリアムと並行して、ロックバンド、スティルウォーターの旅路が描かれる。憧れの人に囲まれる新人の苦労はよく分かると、ライクスは言う。

「ウィリアムは尊敬の対象だったミュージシャンと、いきなり行動を共にすることになる。リハーサル初日に、僕は有名なブロードウェイ作品のプログラムがデザインされたリュックを背負っていった。リハーサル室に入ってぎょっとした。そこにいた人の半数は、そういう舞台に出たことのある大先輩だったんだ」

ウィリアムは「初めての体験」の象徴だと、ライクスは分析する。「夢がかなった瞬間、何年もやりたいと思っていたことができた瞬間は、誰もが覚えているよね」

演出のヘリンは「大人になりつつある若者が、人生の分かれ道でどんな人間になりたいのかを問われる。万人が共感できる物語だ」と語る。

『あの頃ペニー・レインと』はファンであることへの、そして音楽を純粋に、なりふり構わず愛す人々へのラブレター。普段交わることのない人と人とを結ぶ音楽の力を表現した物語でもある。

伝説のロック評論家レスター・バングスに扮したロブ・コレッティによれば、「キャメロン・クロウは過去40年間、人間らしさとは何かを模索してきた。カリスマとあがめられるのには理由がある」。

ミュージカルの観客には映画版を見たときの感動を、生の舞台ならではの臨場感と共に味わってほしいと、コレッティは期待する。

エレイン役のラーセンいわく、クロウと一緒にいると「彼の映画に出ている気分になるの」。そんな臨場感を体験できたら、最高だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の金融対外開放、国際資本に機会提供=金融監督管

ビジネス

ロシアと中国のガス交渉加速へ、中東緊迫化で=シンク

ビジネス

クラフト・ハインツ、2027年までに全製品で合成着

ワールド

G7、ウクライナ巡る共同声明見送り ゼレンスキー氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 10
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中