最新記事

感染症

撲滅まであと一歩だったのに...ワクチン否定派に、元ポリオ患者の私が感じる怒り

“Absolutely Ridiculous”

2022年9月29日(木)18時40分
イツァーク・パールマン(バイオリン奏者)

221004p58_MTN_01.jpg

MATHEW IMAGINGーWIREIMAGE/GETTY IMAGES

そのうちに人々は私に見慣れたようだ。初めてステージに立ったときは、松葉杖を突いて歩いた。今はそれも少し難しくなったので、電動スクーターに乗っている。でも、今では皆が私のことを知っていて、耳で聴いて判断してくれるようになった。

最初の頃は、私の音楽に関する議論に障害の話は出てきてほしくなかったが、私の考え方も進化した。やがて、障害者のアクセスや障害者に対する態度を、私はとても憂慮するようになった。

誰もが私の障害に言及するようになって、その上で「能力と障害を切り離す」ことがいかに重要かという見本になりたい、そう考えるようになった。障害と能力は別のもの。それが私のモットーだ。

私は普通の子供時代を過ごした。友達がいて、サッカーをした。私はいつもゴールキーパーだった。ゴールの前に立って、2本の松葉杖でボールを止めた。学校で免除されたのは体育の授業だけだ。

最近のポリオの感染流行の復活には強い憤りを感じる。私がポリオにかかった時代にワクチンがあったら、接種していただろう。ワクチンを否定する人がいると聞いて、ショックを受けた。考えるまでもないことだ。ポリオは楽しくなどない。苦しいのだ。

先日あるコメディアンが、ワクチンの中身を怪しむ人々を皮肉ってこう言った。「ホットドッグを食べているくせに、ワクチンに何が入っているのか、怖がるんだ?」

ワクチンへの疑念に怒り

ワクチンにこのような疑念を抱く人々の話を聞くと、私は腹が立つ。ポリオ撲滅まであと一歩のところまで来ていたのだ。今のところ感染が確認されているのは数人だけだから、そんなに深刻ではない、とは言えないはずだ。今は数件でも、全員がワクチンを接種しなければ、ポリオの流行は復活するだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから、私たち夫婦は2年半以上、ロングアイランドに籠もっている。8月中旬にはパンデミック以来初めてレストランに行った。演奏も再開し、先日はラビニア音楽祭(イリノイ州)とタングルウッド音楽祭(マサチューセッツ州)に出演した。

再び演奏できることは素晴らしい。観客から熱気をもらい、観客もステージからエネルギーを受け取る。

人々の暮らしは普通に戻り始めている。ただし、私は用心してマスクを着けている。私たちはまだ森から抜け出せていない気がする。

今のところ、私は現実主義者だ。今回のパンデミックが終わったとは思っていない。でも、少しはましになっただろう。最近は新型コロナの陽性反応が出ても、必ずしも死の危険にさらされることはない。全てワクチンのおかげだ。医学は素晴らしい。

ワクチンは絶対に必要だと思っている。チャンスは自分でつかむものだ。病気は進化しているが、科学も進化している。より良い未来がきっと待っている。そうなるかどうかは、私たち次第だ。

ニューズウィーク日本版 岐路に立つアメリカ経済
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月3日号(5月27日発売)は「岐路に立つアメリカ経済」特集。関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中