最新記事

日本社会

香川照之、降板ラッシュよりも痛い最大の痛恨 「ヒール」は演技ではなく本当の姿?

2022年9月10日(土)11時00分
木村隆志(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者) *東洋経済オンラインからの転載

また、トヨタ自動車ほかCM起用している企業は緊急対応に追われていますし、芸能界や歌舞伎界は「乱れているのでは」「時代錯誤」などのイメージを与えてしまったのも事実。「問題を起こしても被害者と示談できれば終わり」ではなく、「もし話が漏れたら」というリスクは長年つきまとうものです。その意味で、自分の行為が周囲の人々に迷惑をかけるリスクを甘く見ていたことは否めないでしょう。

冷静な目で見れば、今回の行為は不倫よりも卑劣であり、批判を受けるだけでなく、犯罪とされるリスクがあることがわかるはずです。そんな誰もがわかりそうなことがわからなかったのはなぜなのでしょうか。それは香川さんが、成功者であることや大金を得ていることを自ら実感していたからでしょう。

今回の行為は、ただ性的欲求が強い人のものというより、「俺は選ばれた人間だからこれくらいはいいだろう」「高いお金を払える人間なんだからこれくらい我慢しろ」という選民意識を感じさせるものでした。成功することや大金を得ることで人柄や言動が変わってしまう。残念ながら芸能人に限らずビジネスパーソンの中にもそういう人は多く、その立場になってみないとわからないところもあるだけに、決して他人事ではないのです。

安全策でピンチを招いたテレビ朝日

最後にビジネスシーンで参考になりそうな、もう1つの「痛恨」をあげておきましょう。

それはテレビ朝日が香川さんをドラマ「六本木クラス」に起用したこと。香川さんは主人公が復讐を誓う最大の敵・長屋茂を演じています。いわゆる「ラスボス」にあたる巨悪であり、「土下座」がキーワードの作品でもあるだけに、キャスティングが発表されて以降、「『半沢直樹』のパクリ」などの声があがっていました。

香川さんは「半沢直樹」に限らずTBSの作品で何度も悪役を演じてきただけに、そんな声があがるのは仕方がないでしょう。つまり、制作サイドはそれを承知で「悪役」というイメージの強い香川さんを起用したのです。しかし、安全策を採ったつもりが、現在「なぜ降板させないのか」などと批判を受ける事態を招いてしまいました。

現時点で代役を立てて撮り直すことは不可能であり、「このまま放送するか」「放送をやめるか」の2択しかなく、しかもどちらを選んでも批判必至。それだけに関係者への影響を最小限にとどめられる「このまま放送する」ことを選んだのでしょう。

ただ批判以上にビジネスとしてもったいなかったのは、"自社専属の悪役俳優"を作るチャンスを逃してしまったこと。異例の全13話で放送するなど局をあげた大作の「六本木クラス」は、「TBSの悪役=香川照之」のようなイメージの悪役をテレビ朝日でも作る絶好のチャンスでした。しかし、テレビ朝日は安全策を採ったことで、そのチャンスを自ら手放してしまったのです。

同作は6話連続で視聴率が上がるなど、中盤から終盤に向けて盛り上がってきたタイミングだけに香川さんの騒動はまさに痛恨。「ビジネスに本当の意味での安全策はないこと」「大きなビジネスこそ安全策を採らずチャレンジしたほうがいいこと」などの教訓を得られたような気がしました。

木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg





今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ兵5.5万人戦死、ロシアとの戦闘で=ゼレ

ビジネス

FRB、今年の大手銀行ストレステストで資本要件変更

ビジネス

英アーム、ライセンス収入が市場予想下回る 時間外取

ワールド

「関税はインフレ招く」の見解訂正、FRBは国民の信
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中