最新記事

映画

性的少数者の苦しみより、喜びを描く『エニシング・イズ・ポッシブル』の爽やかな新しさ

“We Choose Joy”

2022年8月26日(金)17時54分
H・アラン・スコット(ライター、コメディアン)
ビリー・ポーター監督

性的少数者の「喜び」に意図的に焦点を当てたと、ポーターは言う COREY NICKOLS/GETTY IMAGES FOR IMDB

<ビリー・ポーターの初監督作品は、トランスジェンダーの日常がテーマ。古き青春映画の精神を現代的なキャストで描いた注目作をポーター監督自身が語った>

アメリカの青春コメディー映画の原型を作った監督と言えば、ジョン・ヒューズ。だが彼の作品は、人種や性の多様性に欠けていた。

そこで、ビリー・ポーターの出番だ。ポーターの初監督映画『エニシング・イズ・ポッシブル』(アマゾン・プライムビデオで配信中)は、10代のトランスジェンダーが主人公。「(ヒューズの映画には)僕みたいな人は登場しなかったから、白人の典型に自分を合わせるしかなかった」と、ポーターは言う。

この作品は、トランスジェンダーの高校生ケルサ(エバ・レイン)の日常と恋を描く。年齢を超えた成熟さを表現できるレインは適役だったと、ポーターは言う。

「レインは黒人のトランスジェンダーの女の子で、17歳になる前にカミングアウトした。『性的多数派』の女性にはない大人の部分がある」

ポーターは、エミー賞主演男優賞を受賞したドラマ『POSE/ポーズ』に続くプロジェクトの1つが「喜び」に焦点を当てた作品になったことがうれしいと言う。「『POSE』はトラウマについての作品だったけど、『エニシング・イズ・ポッシブル』は混じり気のない喜びの作品」と語るポーターに、本誌H・アラン・スコットが聞いた。

◇ ◇ ◇


――監督は以前からやりたかった?

うん。20代の頃、自分が本当にやりたい仕事は、手が届かない所にあると思い知らされた。だから、自分が世に出したい作品を作るには、自分で製作し、自分で指揮を執るしかないと思っていた。

――性的少数者の物語にはトラウマが付き物だが、この作品はそうではない。意図的に喜びに焦点を当てた?

もちろん。脚本を読んだとき、「ワオ! トランスジェンダーの喜びを描いた物語がついに登場した」と思った。

――ジョン・ヒューズの青春映画は、この作品にどんな影響を与えただろう?

けなすつもりはないけれど、時代が違うから......。今度の作品でやりたかったのは、ヒューズ的な青春映画の喜びを抽出すること。その精神を受け継いだ映画を、今の世界を反映したキャストで作ることができて、とてもハッピーだ。

――『POSE』は、現代のショービズ界における非白人の性的少数者の存在をどう変えたと思う?

ものすごく変えた。それまで存在しなかった空間が生まれ、会話が聞かれるようになった。私がここにいるのは、(『POSE』の制作総指揮の)ライアン・マーフィーのおかげだよ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマート、数百人削減へ 本社などへの異動も要

ビジネス

MSCI銘柄入れ替え、日本株はアシックス1銘柄を新

ワールド

北朝鮮、盗んだ1.47億ドル相当の暗号資産を洗浄=

ビジネス

米家計債務、第1四半期は17.6兆ドルに増加 延滞
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中