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都心に現存する奇跡の建築、東京都庭園美術館の美

2022年6月29日(水)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載
東京都庭園美術館

1階の大客室は特に贅が尽くされ、ルネ・ラリックやマックス・アングランなどフランス人アーティストによる装飾が圧巻だ。

<日本における珠玉のアール・デコ建築として名高い東京都庭園美術館。国の重要文化財に指定されたこの名建築を、より深く知ることができる建物公開展が年に一度、開催されている>

アール・デコ建築の名作

アール・デコ建築の名作として知られる東京都庭園美術館。豊かな緑を有する港区白金台に立つ瀟洒な建物は、1933年に旧皇族朝香宮家の本邸として建設された。

戦後は吉田茂首相公邸や迎賓館として使用されるなど、時代に応じて役割を変え、1983年に東京都の美術館として生まれ変わった。3年にわたる改修工事を経てリニューアルオープンした2014年以降は、美術を中心とした企画展のほかに、毎年一度、建物公開展を開催。通常は非公開の居室が見学可能となるなど、建物を主役とする特別公開が行われている。

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正面玄関のガラス扉はルネ・ラリックがこの建築のために製作した一点もの。床の天然石のモザイクは設計監理を担当した宮内省内匠寮がデザインした。

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大広間と大客室をつなぐ次室に、邸宅の主要部分の設計・装飾を手がけたアンリ・ラパンがデザインした「香水塔」が設置されている。

日仏100人以上が携わった大事業

朝香宮夫妻がアール・デコ様式で邸宅を建設することになったきっかけのひとつが、1925年に滞在中のパリで足を運んだ、現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称、アール・デコ博覧会)だったと言われている。アール・デコとは1920〜30年にかけてフランスを中心に欧米を席巻した装飾様式で、建築やインテリア、工芸、ファッションなどさまざまなものに波及した。有機的な形態を特徴とするアール・ヌーヴォーに対し、直線的なデザイン、幾何学模様のモチーフ、シンメトリーな配置などを特徴にもつ。

洗練されたアール・デコの美しさに惹かれた朝香宮夫妻は、帰国後にフランス人アーティスト、アンリ・ラパンに邸宅の主要部分の設計と装飾を依頼。皇室建築をつかさどる宮内省内匠寮(たくみりょう)が設計監理と内装の一部を担当し、100 人を超える人々が携わって日仏共同で進められた。東京都庭園美術館の大木香奈学芸員は次のように説明する。

「フランスのアーティストが設計に直接関わる一方で、日本の要素を巧みに取り入れて建設されました。この点はほかの宮家建築と一線を画す大きな特徴です」

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