最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載

【高度経済成長】

ウルトラマンが活躍したのは、日本が大発展を遂げた時代だった。大戦後の焼け残りからスタートした日本は、1955年頃からは、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録する「高度経済成長期」に入り、60年には、池田勇人内閣が10年間でGNPを2倍以上に引き上げる「所得倍増計画」を発表。当時の流行語を使うなら、まさに「モーレツ」時代だった。

ところが急速な戦後復興は、大きな歪みを生んでいた。経済的には潤ったが、巨大化する都市の中で人と人とのつながりも希薄になる。そうした経済発展の負の側面をテーマにしたストーリーが少なくない。「ウルトラQ」の本放送では見送られたエピソード「あけてくれ!」は、近代化のスピードに追われたサラリーマンがドロップアウトする姿を描き、ウルトラセブンの「あなたはだぁれ?」では、画一性を要求される都市生活のスキマで侵略計画を進める宇宙人が現れる。どちらも経済優先の合理性が生み出した闇の部分を照射したものである。

社会に疲れた人々を異次元へと誘う、謎と恐怖の列車

■1967年(再放送) 「あけてくれ!」(ウルトラQ)

pen20220518ultraman-7.jpg

男が乗っていた電車が突然上空に向けて走りだし、降りようとしたがドアが開かなくなる。

ドライブに出かけた淳と由利子は、路上で横たわる中年男を保護する。その男、沢村は異次元に向かう電車から降りようとしたという―。理想郷に向かう異次元列車には、会社生活や家庭、学校生活に疲れた人々が乗り合わせている。沢村も会社ではうだつが上がらず、崩壊寸前の家庭生活を送っている人物だ。社会のスピードや合理主義のストレスについていけずに、人が失踪してしまうのは現在でも聞く話。どこかにいなくなりたいというのは、高度経済成長の急激な発展がもたらした現代病なのか、あるいは異次元人のたくらみなのか......。

隣人すら知らない大都会に潜む、現代の寂しい実情

■1968年 「あなたはだぁれ?」(ウルトラセブン)

pen20220518ultraman-8.jpg

男はウルトラ警備隊に公衆電話から電話をかけるが、電話中にフック星人に取り囲まれ気絶してしまう。

深夜、酒に酔い、団地の自分の部屋に帰った佐藤は、家族や近隣の住人に「知らない人」扱いされてしまう。途方に暮れた佐藤はウルトラ警備隊に通報する──。高度経済成長期の人口過密な都市生活では、利便性や効率化と引き代えに、他人とのつながりが希薄になっていく。「隣はなにをする人ぞ?」は、都会で暮らす現代人にとっては当たり前のスタンスとも言える。このエピソードは、自分の家の中ですらそれぞれ思うままに行動し、絆が薄れてきている現代社会において、家族に「あなたはだぁれ?」と言われる恐怖を予言しているのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国万科の元建て社債が過去最安値、売買停止に

ワールド

鳥インフルのパンデミック、コロナ禍より深刻な可能性

ワールド

印マヒンドラ&マヒンドラ、新型電動SUV発売 

ワールド

OPECプラス、第1四半期の生産量維持へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中