最新記事

俳優

イカゲーム主役で世界を虜にした「名演技」、イ・ジョンジェがギフンになるまで

PLAYING AGAINST TYPE

2021年12月17日(金)18時24分
佐藤結(映画ライター)
『ハウスメイド』

大胆な演技で転機となった『ハウスメイド』 EVERETT COLLECTION/AFLO

<『イカゲーム』の主役ギフン役で世界の注目を集めるイ・ジョンジェ。惨めなのにパワーのある演技はいかにしてつくられたか>

「演技が少しマンネリ気味になり、演技そのものに対する興味がなくなっていた時期がありました。すると、必然的に面白い作品の出演オファーも少なくなってしまいました」

『イカゲーム』の配信から2週間ほどたち、世界的に大きな話題を集めていた10月5日。韓国の総合編成チャンネルJTBCの報道番組『ニュースルーム』に出演したイ・ジョンジェは「ドラマの登場人物たちのように逆境に追い込まれた経験は?」という司会者からの質問にこう答えた。

デビューから間もなくしてスターとなり、韓国で知らない人はいないほど有名な俳優として30年近くにわたりキャリアを積んできたが、その歩みは常に順風満帆ではなかったことが、彼の言葉から伝わってくる。

モデルから俳優へと転身したイ・ジョンジェは、1993年にテレビドラマに出演後、80年代を席巻した人気監督ペ・チャンホの『若い男』(94年)で映画デビューを果たす。肉体美を誇る主人公を鮮烈に演じて主要映画賞の新人男優賞を独占。翌年には平均視聴率50%を記録し社会現象ともなったドラマ『砂時計』で、女性主人公に寄り添う寡黙なボディーガードを演じて大ブレイク。放送したテレビ局に「彼を殺さないでほしい」という手紙が殺到するなど、アイドル並みの人気を獲得した。

ぎりぎりの大胆さで新境地

2000年代前半は、後にハリウッドリメークされた『イルマーレ』、日韓合作の『純愛譜』、三流コメディアンと不治の病に侵された妻の愛を描く『ラスト・プレゼント』と、ラブストーリーへの出演が続く。ファッショナブルな外見と優しい笑顔を武器に、ナイーブな恋愛もので魅力を発揮した。

その後は『黒水仙』(01年)、『タイフーン』(05年)と大型アクション映画に挑戦するも興行的に振るわず、9年ぶりにドラマ復帰を果たした『エア・シティ』(07年)でも、期待されたほどの成功を収めることができなかった。冒頭のコメントの「演技そのものに対する興味がなくなっていた時期」というのはこの辺りのことだったのではと推測される。

そんなイ・ジョンジェが俳優として大きくイメージを変え、復活を遂げるきっかけとなったのが、韓国映画史に残る名作『下女』をリメークした『ハウスメイド』(10年)。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でも上映されたこの作品でイ・ジョンジェは、家政婦の女性を誘惑する財閥一家の主人をやりすぎギリギリの大胆さで演じ、新境地を開いた。

デビューから20年を経た13年は、彼にとって記念碑的な年となった。『新しき世界』で韓国最大の暴力組織に潜入した警察官に扮した後、時代劇『観相師』では、クーデターによって王座に就いた実在の人物・首陽大君を好演。映画の中で初めて登場した際のインパクトは強烈で、「韓国映画史上に残る最高の登場シーンの1つ」とも言われている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB後任議長選び、「正式プロセス」既に開始と米財

ワールド

イスラエル、シリア南部で政府軍攻撃 ドルーズ派保護

ビジネス

独ZEW景気期待指数、7月は52.7へ上昇 予想上

ビジネス

日産が追浜工場の生産終了へ、湘南への委託も 今後の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 6
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 7
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 8
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中