最新記事

俳優

イカゲーム主役で世界を虜にした「名演技」、イ・ジョンジェがギフンになるまで

PLAYING AGAINST TYPE

2021年12月17日(金)18時24分
佐藤結(映画ライター)

さらに同年、国立の韓国映像資料院が彼の代表作を上映する特別展を開催。「『スター』としてイメージを保持し続けると同時に『俳優』としても成長してきた映画俳優イ・ジョンジェの歩みを振り返ることは、1990年代から現在までの韓国映画の流れを振り返る意味深い機会になる」とのコメントを発表した。

『新しき世界』『観相師』での成功を受けて、イ・ジョンジェは出演時間が短くても強い印象を残すキャラクターを演じることが多くなった。日本統治下が舞台の『暗殺』(15年)では映画の最後で特殊メークを駆使して老人として再登場し、観客を驚かせた。ハスキーながらドスの利いた声で発せられた名せりふの数々も話題を呼び、現在に至るまで物まねやパロディーの定番となっている。

16年には、『太陽はない』(99年)での共演以来、親友として知られているチョン・ウソンと共に、マネジメント会社アーティストカンパニーを設立。演技以外にも活動の場を広げている。17~18年にはシリーズ2作が連続で観客動員1000万人を突破したファンタジー大作『神と共に』に出演。冥界裁判の統括者である閻魔大王に扮し、特別出演ながら貫禄を示した。

211116P28_GFN_03.jpg

威厳を見せた『神と共に』の閻魔大王役 SHUTTERSTOCK/AFLO

善人の「残酷さ」を表現

そんなイ・ジョンジェが『イカゲーム』で久しぶりに庶民的なキャラクターに扮し、人生のどん底であがく男の悲哀を見せた。街行く人を観察して生活感のある演技を研究したという彼が演じたギフンは、リストラ後に妻に捨てられ、母親のスネをかじっているにもかかわらず、競馬に有り金をつぎ込むという救いのない人物。だがどんなに惨めな役を演じても、主人公としてのパワーを失わないところに、長年トップ俳優であり続けてきた彼の力を感じさせる。

ゲーム開始前の写真撮影で無防備な笑顔を見せていたギフンの顔は、死闘をくぐり抜けるに従いすごみを帯びていく。参加者の中で最も善人であるように見えていたギフンが抱える欲望や残酷さを表現するには、彼のような俳優が必要だったのだ。

211116P28_GFN_02.jpg

親友チョン・ウソン(左)と AFLO

現在は、初監督作となる『ハント(仮題)』の撮影に全力投球中。情報機関の要員を主人公にしたスパイアクションで、チョン・ウソンとの約20年ぶりの共演にも注目が集まる。

数多くの現場を経験するなかで「映画の仕事は演技、製作、演出と別々に分かれているのではない」と考えるようになったイ・ジョンジェ。72年生まれの彼は日本の木村拓哉や浅野忠信、ハリウッドに目を移せばマット・デイモンやユアン・マクレガーと同世代だ。より広い視野を持って映画に関わるようになってきたのも、年齢を重ねてきた結果だろう。新たな一歩がどんな作品に結実するのか、期待して待ちたい。

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インドネシア大統領、訪中取りやめ 首都デモが各地に

ビジネス

中国製造業PMI、8月は5カ月連続縮小 内需さえず

ワールド

ロシア軍参謀総長、前線で攻勢主張 春以降に3500

ワールド

イエメンのフーシ派政権首相ら死亡、イスラエルの首都
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中