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『ジョーカー』怒りを正当化する時代に怒りを描く危うい映画

The “Joker” Isn’t Political?

2019年10月5日(土)19時45分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

『ジョーカー』は政治的な主張をしたいというより、かなりご都合主義的に政治を取り扱っている面がある。道化師の仮面を着け、「金持ちを殺せ」といったプラカードを掲げてデモ行進する人々(ほとんどは白人男だ)の描写には、オルト・ライトの集会を連想させる要素と、左派のアンチファ(反ファシスト勢力)の集会を思わせる要素を意図的に混在させている。

こうした手法は、挑発のための挑発になりかねない。この映画はいわば、ガソリンをたっぷり浸した布の山にマッチの火を近づけるようなことをしている。布を炎上させずに、どこまでマッチを近づけられるかを試しているかのようだ。

映画の中のニューヨークゴッサム・シティでは、次第に憎悪の炎が広がり始める。人々の無知や無関心が原因で反社会的衝動が抑え込まれなければ、どのような結果を招くかが描き出される。

この映画が真に共感を寄せている対象はアーサーではなく、アーサーが象徴する怒りと疎外感だ。そうした怒りと疎外感は、憎悪こそ、不当な世界と戦うための最良の方法だという発想にも結び付く。

このような感情は、時として現実の世界にも充満している。ジョーカーは、それを体現しているにすぎない。

JOKER
『ジョーカー』
監督/トッド・フィリップス
主演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ
公開中

©2019 The Slate Group

<本誌2019年10月8日号掲載>

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