コラム

「逃げろ」「叫べ」で子供は守れない...日本の防犯教育に見る致命的な盲点

2026年03月13日(金)10時40分
下校中の小学生

(写真はイメージです) KuutanX-Shutterstock

<「いかのおすし」や防犯ブザーだけで子供たちを守れるのか。実は多くの防犯教育は「事件が起きた後」の対処法に偏っている。本当に子供を守るための、科学的根拠に基づく防犯教育を考える>

新入学や新学期のシーズン、親が最も心を砕くのは子供の安全である。ところが、私たちが長年信じてきた常識は、実は子供を危険にさらしている可能性がある。物理学者アインシュタインが「常識とは、18歳までに心にたまった先入観の堆積物にすぎない」と述べたように、防犯における固定観念を一度解き放ち、科学的な根拠に基づいた対策を講じることが急務だ。

現在、日本の防犯教育では、知らない人について「いか」ない、車に「の」らない、「お」おごえをだす、「す」ぐにげる、おとなの人に「し」らせる、の文字をとった標語「いかのおすし」や、防犯ブザーの携帯、そして「走って逃げる」「大声で叫ぶ」の練習が主流である。


これらはすべて犯罪が起きてしまった後の対応、すなわち「クライシス・マネジメント(事後対応)」だ。だが本来、子供を守るために最も重要なのは、事件に遭遇する前の段階で芽を摘む「リスク・マネジメント(事前回避)」ではないだろうか。危機に直面してからどう対処するかよりも、そもそも危機に陥らないためにどうするかを教えることこそ、子供の命を守る近道となる。

なぜ「クライシス・マネジメント」だけでは不十分なのだろうか。

それは、人間が恐怖を感じた際の生理的な反応を軽視しているからだ。ニューヨーク大学のルドゥー教授は、「恐怖は思考よりも早く条件反射的に起こる」と指摘している。危機的場面では、パニックに陥り、頭が真っ白になって体が硬直する反応が起こる。

実際、千葉県松戸市で下校途中の女児が刃物で襲われた事件では、逃げようとしたものの、体が固まって転倒してしまい、結果として被害に遭った。子供が危機の瞬間に冷静に行動することを期待するのは、生理学的にも非常に困難だ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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