最新記事

BOOKS

名だたる作家が快諾する海外文学ガイド「BOOKMARK」の執筆依頼状を公開

2019年10月27日(日)10時35分
金原瑞人(法政大学教授、翻訳家)

book191027bookmark-2.png

単行本の『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』では、このように1ページで1作品を紹介。ほかに作家12人のエッセイと、金原、三辺、オザワの3氏による鼎談も収録している

書店へ、図書館へ、校正・校閲......助け舟が続々と

なんで、こんな冊子を出すことにしたのかについては、単行本の前書きで共編者の三辺さんも書いているのですが、つまるところ、翻訳物が好きだから、紹介する冊子を作ろう、という、ただそこから始まったようなものです。そこにオザワミカさんという素晴らしいデザイナーが加わってくださって、とりあえず、形だけはできました。

そのあと、じゃあ書店に取り次いであげようという方が現れ、じゃあ公共図書館2000館に送ってあげようという方が現れ、さらに、第1号、第2号があまりに間違いが多いというので、校正・校閲をしてあげようという方々が現れて、現在にいたる、という感じです。

そのうえ、原稿料なし(冊子30冊をお礼に)という条件で紹介文を書いてくださる翻訳者の方々が、ほとんどみなさん、怒ったりせずに、それどころか、とても喜んでくださる。いや、こちらこそ、申し訳ありません、という以外ないのですが、うれしいです。

とくに、翻訳界の大先輩ともいうべき方々、たとえば、佐宗鈴夫さん(パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』)、志村正雄さん(ナット・ヘントフ『ジャズ・イズ』)、藤井省三さん(李昂『海峡を渡る幽霊 李昂短篇集』)などから励ましの手紙やメールをいただくと、僭越ながら、多少は恩返しができたかなと思ったり。それ以上に、若手の翻訳家の方から熱い思いを伝えられると、これがまたうれしい。

さらに、書店ではコーナーを作ってくださるし、図書館では展示をしてくださるし。自分もたまにはいいことをしているんだなと思えて、この「BOOKMARK」、まだしばらくは続けていこうと思っていますので、どうぞ、よろしくお願いします。

それにしても、訳者の400字にこめられた気持ちはどれを読んでもひしひしと伝わってきます。考えてみれば、いままでブックガイドはたくさんあったけど、訳者が紹介したものはなかったかもしれません。

最後に、サンプルとして、11月に配布される第15号から紹介文をひとつ。


絶望名人カフカの人生論
フランツ・カフカ
頭木弘樹 編訳
新潮文庫
520円+税

中学生のとき、夏休みの読書感想文のために、いちばん薄い文庫本を選んだら、カフカの『変身』だった。その『変身』を思い出したのは、二十歳で突然、難病になったとき。ある朝、ベッドの中で虫になって、部屋から出られなくなって、家族に面倒を見てもらうしかなくなった主人公。久しぶりに読み返したそれは、難解な小説どころか、自分にとってはまさにドキュメンタリーのようだった。

カフカの日記や手紙まで読むようになった。こういう言葉があった。「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」病院のベッドで倒れたまま読んだ。笑って泣いた。

13年の闘病生活の間、自分自身のために、カフカの言葉を訳していった。手術して社会復帰できたとき、本にしようと思った。昔の自分のような人の手に届けたかった。カフカの「ぼくの本が、あなたの親愛なる手にあることは、ぼくにとってとても幸福なことです」という言葉と共に。

(頭木弘樹)


翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK
 金原瑞人・三辺律子 編
 CCCメディアハウス

●イベントのお知らせ
『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』刊行記念
金原瑞人さん×三辺律子さん×オザワミカさん トーク&サイン会開催
日時:10月31日(木)19:00~
場所:丸善・丸の内本店 3F 日経セミナールーム
要整理券(電話予約可)
https://honto.jp/store/news/detail_041000037947.html

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    反ワクチン政策が人命を奪い始めた
  • 9
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中