最新記事

教育

日本近代の歩みとミシガン大学

2019年9月24日(火)12時00分
筒井清輝(ミシガン大学日本研究センター所長)※アステイオン90より転載

一九八〇年代に入って日米貿易摩擦が深刻な局面を迎えると、デトロイトに近いミシガン大学に所属する日本研究者は、ビッグ3をはじめとする自動車業界関係者から、日本の自動車産業に関する知識を求められるようになる。これを受けて、一九八〇年代には毎年日米自動車会議が開かれ、日米自動車業界の大物たちが政治家や研究者と共に議論を交えることになる。ここでの交流が、激しい貿易摩擦の中、業界のリーダーたちの関係を多少は穏やかにし、日本の自動車産業のアメリカへの工場進出などの新たな展開にも貢献したといわれる。また、この時期以降、アメリカの企業が日本のマネージメントスタイルやものづくりの技術を学ぶ動きが現れ、トヨタ・ウェイやクオリティー・コントロールなどのバズワードがアメリカのビジネス業界を席巻する。明治期にアメリカから多くの技術や知識を輸入した日本が、今度はアメリカに新しいビジネスモデルを輸出する側に立ったのである。外山や小野がこの状況を見たら、いかに感動したことであろうか。

このような日米交流の歴史を取り持ってきたミシガン大学で、現在、ホール教授から数えて一九人目の日本研究センター所長を日本人の私が務めていることは感慨深い。しかも、私が教授を務めている学部は外山正一が学んだ社会学である。小野英二郎が二〇世紀初頭に作ったミシガン大学同窓会は、現在もその活動を続けており、毎年の同窓会の集まりでは、私も日本研究センター所長として挨拶をさせてもらう。二〇一八年六月には、彬子女王をミシガン大学にお迎えしたが、これは明仁皇太子以来の皇室からの訪問であった。岡山フィールドステーションのことは岡山では広く記憶されており、その縁で岡山大学との交流も昨年来深まっており、先方の創立七〇周年記念行事への参加も決まっている。二〇一九年三月には日米自動車会議2・0が開催され、自動車業界および政・官・学界のリーダーたちが一堂に会した。このように日米交流の中心にいられるのも先人たちの不断の努力によるものと肝に銘じて、あらゆるレベルでの知的・人的交流を次の世代へ向けて支えていかなければと襟を正すこの頃である。

筒井清輝(Kiyoteru Tsutsui)
1971年生まれ。京都大学文学部卒業。スタンフォード大学にて博士(社会学)取得。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校助教授、ミシガン大学社会学部助教授、准教授等を経て、現在ミシガン大学社会学部教授、日本研究センター所長、ドニア人権センター所長。専門は、国際・政治社会学、比較・歴史社会学など。主な著書に"Rights Make Might : Global Human Right s and Minority Social Movements in Japan"(Oxford University Press)など。

当記事は「アステイオン90」からの転載記事です。
asteionlogo200.jpg



アステイオン90
 特集「国家の再定義――立憲制130年」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中