最新記事

映画俳優

ラトガー・ハウアー死去、『ブレードランナー』で残した不朽の一節を振り返る

RUTGER HAUER

2019年7月29日(月)17時10分
サム・アダムズ

生涯に100本以上の映画に出演したラトガー・ハウアー STUART C. WILSON/GETTY IMAGES

<100本以上の映画に出演したが、最も有名なのは『ブレードランナー』のレプリカント、ロイ・バッティ役だった。「雨の中の涙のモノローグ」は忘れられない>

オランダ人俳優ラトガー・ハウアー(75)が7月19日に亡くなっていたことが分かった(病名は明かされていない)。

50年以上にわたるキャリアの中で100本以上の映画に出演したが、最も有名なのは1982年のSF映画『ブレードランナー』で演じたレプリカント(人造人間)のロイ・バッティだろう。ハウアーは、ジャンルの壁を越えて後の全ての作品がよりどころとするような人工生命体を体現していた。ロイは、その強さと速さで超人的なだけではない。人間より多くを見て、多くを感じているようだった。

2011年に筆者がインタビューしたときハウアーは、リドリー・スコット監督はロイは人間の「全てであり、それ以上である」ことを望んだと語っていた。そしてハウアーはこう言ったという。

「私は詩的感覚や美的感覚を持てるのか、あるいは魂を持ち、ユーモアの感覚を持てるのか、7歳のようになれるのか? 自分の妹を愛していいか? セックスはしないが、セクシーか? 邪悪なのか?」

これらの矛盾してみえる性質は、有名な「雨の中の涙のモノローグ」に全て凝縮されている。

自分を追い詰める主人公リック・デッカード(ハリソン・フォード)に向かってロイが吐いた、最後の独白だ。

終わりを悟ったロイは破壊的行為をするのではなく、自分の知っていることを人間に伝えようとした。「人間には信じられないものを私は見てきた」と、彼はゆっくり語る。手には白いハトを持ち、眉から雨が滴る。「オリオン座の肩の近くで炎を上げる戦闘艦。タンホイザーゲートのそばの暗闇で瞬くCビーム。そうした記憶もみんな時とともに消える、雨の中の涙のように。死ぬ時が来た」

このうち不朽の一節である「雨の中の涙」は、ハウアーが考えたものだ。脚本の長い独白を彼が大幅にカットしたという。オリオン座とCビームへの言及はもともとあったが、「雨の中の涙」はアドリブだった。

その詩的なセリフはロイの目の消えかけた光とともに、人々の心に残り続けるだろう。

©2019 The Slate Group

<2019年8月6日号掲載>

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネト

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中