最新記事

映画

映画「アベンジャーズ」が韓国を変えた 撮影現場にハリウッドがもたらした緊急医療支援

2019年4月18日(木)18時00分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

一流のスタントアーティストが危険を伴う撮影をできるのも、緊急医療チームが待機している安心感があればこそ Mario Anzuoni - REUTERS

<国民一人あたりの年間映画鑑賞本数が日本の約3倍、ハリウッドの話題作が本国に先駆けて公開されるなど、コンテンツビジネスとして映画が健在な韓国。それをサポートした国の施策がなくなるというが......>

ダイナミックなアクション映画、派手な爆破シーンの多い戦争映画。どれも映画館への動員が見込めるジャンルだが、スクリーンの裏の撮影現場ではこれらの映画は出演者やスタッフが日夜危険と隣り合わせで作られている。

一般にはあまり知られてはいないが、韓国では2014年から、こういった危険が伴う映画撮影現場に緊急医療チームを派遣する支援制度があった。国の機関、韓国映画振興委員会(KOFIC)が助成していた「映画現場緊急医療支援」である。

これは、撮影現場に救急車など緊急医療チームを派遣する際の費用を支援する制度だった。しかし2019年4月4日、KOFICはこの支援を廃止することを発表し、注目を集めている。

この資金は、すべての映画に対応しているわけでなく、申請された韓国映画から振興委員会が定めた規定をクリアした危険シーンを含む映画に支援されている。2014年からスタートし、初年度は9作品。その後、2015年には15作品、2016年13作品、2017年16作品。昨年2018年は17作品が対象となり、支援金が助成されてきた。韓国映画の制作作品数は年々減ってきているといわれているが、観客に人気の高い派手なアクションシーンのある映画は増えている。また、この制度の存在も知られていき、毎年申請本数が増えてきていた矢先の打ち切りだった。

支援の内訳は、昨年2018年度の場合、申請が通った作品の緊急医療にかかる費用全体の80%をKOFICが負担した。また、スタッフの全員が「標準勤労契約書」にサインしているか、製作費が10億ウォン(約1億円)未満の低予算作品には100%の支援をしてきた。

国からの支援は役目を終えた?

5年間実行されてきたこの支援制度だが、今回廃止となった理由としてKOFICは次のように述べている。まず、1つは5年間の支援により韓国映画業界での緊急医療の必要性への認識度が十分高まったため。もう1つは支援作品が高額な製作費の大作に集中してしまいあまり効果的でないと判断したためだ。確かにアクションや、危険を伴うシーンのある映画は低予算ではなかなか難しく、支援が偏ってしまうのは仕方がない。実際、去年対象となった支援作品の8割が製作費が50億ウォン(約5億円)を超える映画だった。

2014年に始まった支援だが、きっかけは意外にもハリウッド映画だった。2015年に公開され世界的に大ヒットしたスーパーヒーローシリーズ『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』だ。この映画では中盤、舞台が韓国になる。国をあげてのロケ誘致に成功し、約2週間にわたって、ソウルを中心に大規模な韓国ロケが行われた。ソウルの真ん中を通る漢江にかかっている麻浦大橋を朝6時〜夕方5時半まで全面封鎖して撮影協力をしたほどだ。

当時韓国文化体育観光省の第1次官だったジョ・ヒョンジェ氏は、その撮影現場を見学後、現場で救急車と消防車が準備できないと撮影を開始しないというハリウッドスタッフらの安全意識の高さに感銘を受け、このシステムの韓国導入のため支援を決定した。見習うべきものがあれば、それをすぐに生かすために決断と実行する速さは、さすが韓国だと感じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中