最新記事

映画評

行き先を見失ったプロメテウス号

人類の起源を追い掛けてテーマの重さに押し潰されたSF大作

2012年9月5日(水)14時50分
デーナ・スティーブンズ(脚本家)

無防備 壮大な謎に挑んでエイリアンと戦うにしては、何かと緩い科学者たち ©2012 Twentieth Century Fox Film

『プロメテウス』のオープニングは3D映像の絶景が広がる。険しい崖と氷河が続く荒涼とした景色は、本物の宇宙空間で撮影したかのようだ(実際のロケ地はアイスランド)。

 滝の端に、大理石のように白い肌をした人間そっくりの異星人が立っている。彼が泡立つキャビアのような黒い液体を飲み干した瞬間、体が粉々に砕け散り、DNAのようにねじれた構造物が散らばる。人類の起源を想像させる幕開けだが、残念ながらその意味は最後まで明かされることはない。

 物語は2089年の地球に飛ぶ。考古学者カップルのエリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)とチャーリー・ホロウェイ(ローガン・マーシャル・グリーン)は、古代遺跡で異星人との交流をうかがわせる壁画を発見。人類の起源を探る調査隊が編成され、宇宙船プロメテウス号で未知の惑星へと向かう(ギリシャ神話にちなんで大層な名前を宇宙船に付けるのは、いいかげんにやめたほうがいい)。

 科学者のメレディス・ビッカーズ(シャーリーズ・セロン)が率いる調査隊は、普通に考えればあり得ないミスを連発する。化石化した異星人の死体のサンプルをこっそり持ち帰るのは軽率だろう。未知の惑星で仲間からはぐれ、不気味な沼でヘビのような生物に遭遇したら、無防備に近づいたりするだろうか。

 致命的なミスは不気味な結末につながる。異星人を「妊娠」したショウが帝王切開手術を受ける場面はホラーさながら。何だかすべてが嘘くさくなる。最後の30分間は混乱と爆発と戦い──人間対人間、怪物対人間、怪物対怪物──に目がくらむ。

 いっそのことSFアクションに徹すれば良かったのかもしれない。『プロメテウス』は、人間の存在意義という重たいテーマに自ら押しつぶされそうだ。

 人間はどこから来たのか、なぜ生きるのか、死んだらどうなるのか──無神論者のアンドロイド、デービッド(マイケル・ファスベンダー)が人間に疑問をぶつける。ウイットに富んだ演技のおかげで、デービッドが登場すると場面が引き締まるのは幸いだ。

 抽象的で哲学的な謎に振り回され、オープニングの意味などストーリーにちりばめられた謎は放置されたまま、物語は無責任な幕切れを迎える。次回作を待てということだろうか。

© 2012, Slate

[2012年8月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ワールド

アサド政権崩壊1年、行方不明者の調査進まず 家族の

ビジネス

豪中銀が金利据え置き、利上げリスクに言及 緩和サイ

ワールド

最近の長期金利、「やや速いスピード」で上昇=植田日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中