最新記事

話題作

「『ザ・コーヴ』第2弾を作りたい」

2010年7月9日(金)14時17分
大橋 希

――地元の人々の撮影妨害を受けて、最終的にイルカ漁の様子を「盗み撮り」しているが、撮影許可をめぐり太地町側ときちんと交渉はしたのか。

 まず言っておきたいが、私はあくまで出演者の1人であり、製作側の人間ではない。映画の企画にはまったく関わっていないし、隠し撮りをするという決定とも無関係だ。ただ、撮影隊は町長や地元の漁業組合に撮影依頼をしたとは聞いている。しかし断られたということだ。

太地町には約3500人の住民がいるが、二十数人の漁師と食肉処理場で働いている人以外、大多数の住民はイルカ漁とまったく関係がない。町自体も非常に平和な場所で、夜も家のカギをかけない、車のカギは入れっぱなしで、自転車のカギもかけない。一握りの人たちがやっていることで町全体が非難されたり、日本人全員が悪人であるかのように勘違いされてしまうのは非常に残念。日本人は平和的で礼儀正しい人々だ。

確かに世界の人々は、「彼ら(they)はあんなにひどいことをしている」と言う。その「they」という言葉の使い方を、私はすごく不満に思っている。

――でも、そうした誤解を招いた責任がこの作品にはあるのでは。

それはその通りだ。ただ、この映画は1人の西洋人、1人の映画監督の視点で作られている。そうした文脈の中で見る必要がある。

私は『ザ・コーヴ、再訪』という映画を作ってもらいたくて、日本人のプロデューサー、監督、脚本家をずっと探している。日本人の視点から見た『ザ・コーヴ』第2弾で、そこでは太地町長や町議の話を取り上げる。『ザ・コーヴ』の監督はもう次の映画製作に移っているが、私はこれからも太地の問題に取り組んでいく。

――イルカ漁に反対する理由は? その知能の高さか?

 陸と人間、海とイルカは同じような関係だと思う。彼らは魚ではない。恒温動物だし、酸素を吸う。人間の脳より大きな脳を持っていて、人間のように自己認識ができる。人間は鏡に写った自分を自分と理解するが、イルカにもそのぐらいの知能がある。

 太地に行き、あのひどく残虐な漁を目の当たりにすると、イルカを殺す漁師以上にイルカの売買を行う人々や調教師に怒りを感じる。もしかしたら漁師たちは、自分たちがやっていることを理解していないのかもしれない。「鯨」という漢字に魚偏がついていることで、「大きな魚だ」という意識があるのだろう。

調教師たちはもっとイルカのことをわかっている。彼らはイルカに名前をつけ、毎日、目と目を合わせてコミュニケーションを取っている。調教師は暴力的なイルカ捕獲作業にも関わっていて、ある意味で漁師よりもっとたちが悪いと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中