最新記事

話題作

「『ザ・コーヴ』第2弾を作りたい」

和歌山県太地町のイルカ漁を糾弾するドキュメンタリー映画の出演者で、イルカ保護活動家のリック・オバリーに聞く

2010年7月9日(金)14時17分
大橋 希

もう一つの視点 日本人から見たイルカ漁についての映画を作りたい、と話すオバリー

 7月3日に日本公開が始まった米ドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(ルイ・シホヨス監督)。和歌山県太地町のイルカ漁を批判する内容が「反日プロパガンダ」だとして上映中止を求める活動が起こり、一時は公開が危ぶまれた。

出演者の1人で「映画の顔」にもなっているリック・オバリー(70)は60年代、アメリカの人気テレビ番組『わんぱくフリッパー』でイルカの調教師兼俳優を務め、その後イルカ保護の活動に転じた人物。来日したオバリーに話を聞いた。

――映画に出演することになったいきさつは?

私と一緒に動いて、カメラを回してもいいかと監督が電話をかけてきた。2005年のことだ。最近知ったのだが、彼は電話を切った後、映画の製作方法を学ぶ3日間の講座を取ったらしい。映画監督を目指す若い人たちが非常に心強く思うエピソードなんじゃないかな。誰でも映画を撮れる、ってね。

この映画はアカデミー賞も受賞したし、世界中で最も多くの賞を取ったドキュメンタリー映画という世界記録も打ち立てた。受賞に際しては、エンターテインメント作品としての価値が評価された。だからこそ、日本人にも見る権利があると思う。

――映画の製作が決まってから、初めて太地町を訪れたのか。

いいや。その数年前から、私は太地町に何度も足を運んでいた。通常の活動の一環だ。

――イルカの「虐殺」を止めるために定期的に訪れていたのか。

そう。記録を取るためにだ。私が撮影した映像フィルムを誰にでも無料で提供し、啓蒙活動のようなことをしていた。入り江で起こっていることを初めて目にした時、これをどうやって止めればいいかという話を日本の仲間とした。彼らは「ガイアツ」をうまく利用するべきではないかと言い、私もそれは一つのアイデアだと思った。入り江で起きていることを暴露すれば、世界の人々が動いてくれるかもしれない、と。

同時に、イルカ肉を購入し、それを分析検査にかけることも始めた。そのすべてでかなり高い数値の水銀汚染がみられ、中には公的基準値の2000倍くらいのものもあった。

山下(順一郎)さん、漁野(尚登)さんという2人の太地町議会議員にその話をしたが、最初は納得してもらえなかった。でも彼ら自身で肉を買って検査に出し、私の指摘が正しいことを確認してくれた。そして彼らは町の学校給食でイルカ肉を使うことをやめるよう働きかけた。でも、一般の人々に対してはイルカ肉を売り続けている。それはちょっとおかしいのではないかと私は思い、この問題を動物愛護だけでなく「人権問題」としてとらえるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中