最新記事

テクノロジー

3D騒ぎが映画をダメにする9つの理由

2010年6月17日(木)15時09分
ロジャー・エバート(シカゴ・サンタイムズ紙映画評論家)

 消費者向け情報誌コンシューマー・リポーツによれば、3D映画を見た人の約15%が頭痛や目の疲れを訴えるという。

5)画面がやや暗い 3D映像システムの父として知られるレニー・リプトンは、現在のデジタルプロジェクターは「(光学的に見て)効率が悪い」と断言している。「光の半分は右目、半分が左目に入るから、単純に明るさが50%減るということだ」。さらに3D用の眼鏡も光を吸収する。

 現在、大半の映画館が3D作品を3〜6フットランバート(fL)の輝度で上映している。fLとは、簡単に言えばフィルムを入れていない映写機がスクリーンに投じる光量のこと。アナログ映写機では大体15fLで、オリジナルのアイマックス(大型映像システム)では22fLだった。

6)デジタルプロジェクターを売りたい商魂が透けて見える 3D上映用機材の導入は巨額のコストが掛かるため、当初は映画館が難色を示し、コストの一部を映画会社が負担すべきだと主張していた。これに対して一部の映画会社は、3Dで上映しないなら2Dでの上映も認めないと主張して映画館に圧力をかけた。

 ほとんどの映画館の映写室には、アナログとデジタルの映写機を置くスペースがあるのに、アナログ時代は終わったとばかり、デジタルへの切り替えを迫るセールス攻勢がかけられている。

7)観客は特別料金をふんだくられる 3Dの上乗せ料金はこのまま定着するのか、プロジェクターの元が取れたら無くなるのか。

 特別料金は、親たちの頭痛の種だ。子供は宣伝にだまされて「3Dじゃなきゃ嫌だ」と言い張る。私は『タイタンの戦い』の映画評でこう書いた。「この映画は3D映像として製作されたものではない。5ドルの特別料金を取るために3Dで上映されるだけだ。2Dで見ても十分楽しめると、子供に教えてあげたほうがいい」

 『タイタンの戦い』は『アバター』に続く2匹目のどじょうを狙って、慌てて3D効果が付け加えられた映画だ。3Dアニメに社運を懸けるドリームワークスのジェフリー・カッツェンバーグでさえ、『タイタンの戦い』の3Dは「観客をだますものだ」と酷評した。ちゃちな疑似3Dは金の卵を生むはずのガチョウを殺してしまいかねないと、カッツェンバーグはバラエティー誌のインタビューで語っている。

8)シリアスなドラマに3Dは必要ない かつてアルフレッド・ヒッチコックは3Dで撮影した『ダイヤルMを廻せ!』の出来に不満で、ニューヨークでの封切りでは2D版を上映した。3Dはもっぱらコンピューターで製作する作品に向いているらしい。子供向けの映画やアニメ、そして『アバター』のような作品だ。

 もちろん、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』は別格だ。素晴らしい映画で、オリジナルのアイマックス・システムのスクリーンなら臨場感抜群。それに史上最高の興行収入を挙げている。

 この映画は3Dの広告塔として利用されているが、(特別料金のない)2Dでも成功したのではないだろうか。全米興行収入の史上第2位は同じキャメロンの『タイタニック』で、こちらはもちろん2Dだった。

 それでも『アバター』は3Dをとても効果的に使っている。最初から3D用に計画を立て、2億5000万ドルを投じて完成させたキャメロンは撮影と編集の達人だ。だが、ほかの監督は特別料金を上乗せしたい映画会社のお偉方に3Dを強制されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中