最新記事

映画

『アバター』×『ラブリーボーン』対談

ジェームズ・キャメロン、ピーター・ジャクソンの両監督が語り合うテクノロジーと映画の未来。新しいCG活用法から3Dの将来性、ハリウッドに対する批判まで

2010年3月8日(月)14時41分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

映像革命 3D映画ブームに火を付けたキャメロンの『アバター』 © 2009 Twentieth Century Fox

『タイタニック』のキャメロン監督は超大作『アバター』で3Dの新境地を開き、『ロード・オブ・ザ・リング』の名手ジャクソンは『ラブリーボーン』で死後の世界を描いてみせた。2人が考える映画の神髄とは。

ジェームズ・キャメロン 『ラブリーボーン』のプロモーションツアーはうまくいってる?

ピーター・ジャクソン まあまあかな。いつもより時差ぼけがひどいんだけど、これは年のせいだ思う。今いる場所は......ええと、ベルリンだ。

キャメロン 自分がどこにいるのかすぐに分からないのか(笑)?

ジャクソン そうなんだ。この電話対談が終わったら、すぐパリに移動する。それで、今日のテーマはテクノロジーと映画だよね?

キャメロン 最先端の映像を生んだイノベーターということで、私たちはよく映画製作の未来について質問される。簡単に言えば、映画作りの基本は今もこれからも変わらない──これが私の答えだ。

 映画はストーリーがすべて。人間が人間を演じてこそ映画、俳優のクローズアップがあってこそ映画だ。俳優はせりふを口にし、演技で観客の心の琴線に触れる。この映画の在り方が変わるとは思えない。100年前からずっと変わっていないはずだ。

ジャクソン 映画産業はおかしなな状態になっている。ハリウッドだけじゃない。世界的な傾向だ。

 独立系の配給会社や映画専門の金融会社が消えて、中規模の作品が製作できなくなった。スタジオは超大作が頼みの綱で、最近ではヒットが見込める映画といえば、莫大な予算の超大作ばかりだ。

 つい3、4年前までリスクが大きいと敬遠されていたのに、09年の夏は超大作のオンパレードだった。どれも相当な製作費を投入して、軒並み好成績を挙げた。作品の質とはほとんど無関係に、どの映画もヒットした。一方で、業界は小〜中規模の映画をヒットさせる能力を失ってしまった。

キャメロン 今の業界には、例えば『アバター』のような映画を作るガッツもないね。『アバター』は超大作だが、ストーリーはオリジナルだ。過去4年間に公開された超大作は、どれも原作があるかシリーズ物。『トランスフォーマー』も『ハリー・ポッター』も『スパイダーマン』もそうだ。超大作をストーリーから作るという発想がなくなってしまった。

 そうこうしている間にもテクノロジーは進化する。昔ながらのやり方では、超大作の製作費はなかなか調達できない。しかも近い将来、最新テクノロジーの価格が下がる見込みは薄い。

テクノロジーは映画の救世主になれない

ジャクソン みんな、製作費を下げることに固執し過ぎている。CGに掛かる費用の大半は人件費だ。人件費が安い中国や東欧の工場にでも仕事を委託しない限り、人件費は下がらない。実際には上がる一方だ。

キャメロン 美しい映像を作るのはコンピューターじゃない。人間だ。君が(ニュージーランドの)ウェリントンで設立した視覚効果スタジオのWETAデジタルでは『アバター』のスタッフ800人が半年間、骨身を削った。

ジャクソン 過労でぶっ倒れたスタッフを除いてね。

キャメロン 数日前に最後のシーンが完成した。あの晩のウェリントンのパブはさぞ繁盛しただろう。

ジャクソン スタッフの机の下に枕や寝袋が転がっていたな。

 マスコミがテクノロジーに向ける関心は、ピントがずれている。やれ「映画産業が危ない」とか「3Dは映画を救えるか?」とか。まったく見当違いだ。

 映画産業は確かに危ない。でも、それはテクノロジーとは無関係だし、テクノロジーが映画の救世主になるとは限らない。

キャメロン 救世主にはなれないだろう。しかし、3Dという「イベント」に引かれて劇場に集まる観客は増えるかもしれない。

 映画の醍醐味は集団体験にあると思う。暗い劇場で身を寄せ合い、映画に泣いたり笑ったりして、「よかった、みんなと同じリアクションだ」と安心する。映画観賞は「私の情緒はまともだ」と再確認する1つの方法なんだよ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスのメンバー3人殺害 ヨルダン川西

ビジネス

米インフレ、目標に向け推移 労働市場は堅調=クーグ

ワールド

韓国大統領、戒厳令を解除へ 「国会の投票を尊重」

ビジネス

FRB利下げ、12月も排除せず 時期は柔軟に対応=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 7
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 8
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 9
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中