最新記事

俳優

韓流に染まるハリウッド

ハリウッドで韓国系俳優の活躍が目立ってきたが、ステレオタイプな配役など文化の壁はまだ残る

2009年12月18日(金)13時08分
ソニア・コレスニコフジェソップ

 90年代後半、アジアに押し寄せた韓流の波。メロドラマから映画、音楽まで、アジアの人々は韓国のカルチャーと二枚目スターに夢中になった。それでも、その波がアメリカまで届くことはなかった。せいぜい『イルマーレ』『箪笥』といった韓国映画のリメーク版が製作されたくらいだ。

 ところが最近は、韓国系俳優がアメリカのTVや映画で勢いを見せている。04年にキム・ユンジンとダニエル・デイ・キムがテレビドラマ『LOST』でブレイクし、『グレイズ・アナトミー』のサンドラ・オー、『HEROES/ヒーローズ』のジェームズ・カイソン・リーがそれに続いた。

 今年になって、韓国系アメリカ人ダニエル・ヘニーが『ウルヴァリン:X│MEN ZERO』で悪役エージェント・ゼロを演じ、米CBSの医療ドラマ『スリー・リバース』にも出演中。イ・ビョンホンは映画『G.I.ジョー』で悪の組織の一員になった。ジョン・チョーは映画『スター・トレック』のヒカル・スールー役に続いて、米ABCのSFドラマ『フラッシュフォワード』でFBI(連邦捜査局)捜査官を演じている。

 次の注目株はピとして知られるチョン・ジフンだ。アジアではスーパースターの彼も、世界的にはほとんど無名。しかし11月25日全米公開の大作映画『ニンジャ・アサシン』(ジョエル・シルバー、ウォシャウスキー兄弟製作)で主演に抜擢された。

 ハリウッド映画の大役に韓国系俳優を起用するのは、ビジネス上の理由もある。チョンらが絶大な人気を誇るアジアは映画観客数が増加している、世界でもまれな地域だ。特にハリウッド映画にとって韓国は重要市場で、イギリスでの興行収入を上回ることもある。映画情報サイト、ボックス・オフィス・モジョによると今夏の『G.I.ジョー』の場合、アメリカ以外で最高の興行成績を挙げたのは韓国だった(1320万ドル)。

 アジアで実績のある韓国人監督にも、ハリウッドから声が掛かる。しかし、当の監督たちはあまり乗り気でない。「韓国でもトップクラスの監督なら自国ではどんな映画も自由に制作できる」と、映画会社バーティゴ・エンターテインメントのプロデューサーで、韓国系アメリカ人のロイ・リーは言う。「(アメリカの)映画会社と組めば、思うようにはできなくなる」

オーディションの抵抗感

 アジア出身の俳優がハリウッドで成功するには、文化の壁を乗り越えなければならない。英語をマスターし、映画会社幹部との人脈づくりもある。役の獲得プロセスも違う。「アジアではほとんどの場合、オーディションは行わない」と、タレントエージェンシーのウィリアム・モリス・アジアの元取締役グレース・チェンは言う。「アメリカでオーディションを受けるのは、アジアの大スターにすればかなり抵抗感がある」

 そして今でもアジア人俳優には、「武術の達人」という型にはまった役が多い。「映画の配役にはまだ固定観念が存在する」と、『ニンジャ・アサシン』のチョン。「アジアには独特の幅広い文化がある。武術に関心のある人がほかの文化より多いだけだ」

 しかしそれも変わりつつある。韓国人俳優がラブストーリーの主役を張るには時間がかかるかもしれないが、韓国文化はテレビや映画に少しずつ入り込んでいる。「これまでは日本文化がよく出てきた。登場人物が寿司を食べたり日本語を話したり。最近はそれが韓国文化に代わってきた」と、韓国人脚本家のシンホ・リーは言う。

 映画制作の現場でも韓国系アメリカ人の存在感が増していると、バーティゴ・エンターテインメントのリーは指摘する。「ハリウッドでは、どのアジア系よりも韓国系が多く働いている」。特にカメラの前ではそうだろう。

[2009年11月25日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ステーブルコイン、決済手段となるには当局の監督必要

ワールド

ガザ支援船団、イスラエル封鎖海域付近で船籍不明船が

ビジネス

ECB、資本バッファー削減提案へ 小規模行向け規制

ビジネス

アングル:自民総裁選、調和重視でも日本株動意の可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 6
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中