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「頭の切れる人」とそれほどでもない人の決定的な差 いきなり考えても決してうまくいかない理由

2021年4月10日(土)11時30分
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授) *東洋経済オンラインからの転載

ものごとを抽象化して
構造を捉えるクセをつける

たくさんの情報を得ていても、それをそのまま解決策にできないとすれば、その情報や知識を応用する形で、解決策を考えていく必要があります。この応用をするためには、得られた情報を抽象化して理解しておくクセをつけるのが有効なのです。

例えば、小学校の算数を考えてみましょう。最初は、みかんの数を数えさせたり、りんごの数を数えさせたりします。次に、みかんとりんごを果物という抽象化された分類に変えて果物は何個あるでしょう? という質問になります。さらには、みかん3個にりんご5個を足して、全部で8個という具体的な計算から、3+5=8という抽象的な形での理解に進んでいきます。

ここまでくれば、足し算の計算は、みかんやりんご、あるいは果物に限ったことではなく、ほかの足し算の応用問題も解けるようになります。それは、果物の数を数えるという行為を、足し算という抽象的な形で理解できているからです。応用力をつけるカギは、抽象化なのです。

そうはいっても、抽象化して理解するのは、容易なことではありません。もしかすると、ここまで読んで、どうしたら抽象化できるのだろう、と途方にくれている読者の方もいるかもしれません。

誤解しないでいただきたいのは、抽象化して理解できるようになることが、考える土台ではないということです。調理器具としてそろえておく必要があるのは、あくまでも、抽象化して理解しようとするクセだけです。日頃から、「ああ、抽象化っていうのは、大事なんだなあ」「単に情報をそのまま受け取るのではだめで、抽象化の工夫が必要なんだなあ」と思うことがポイントなのです。

では、どうやって抽象化するクセを身につけたらいいでしょうか。また、発想の仕方、工夫の仕方は、どうしたらレベルアップしていけるでしょうか。以下では、どのようなスタンスで情報に接すれば、抽象化のクセがつきやすいのかについて、次の3つのステップを踏んで説明していくことにしましょう。それは、

(1)幹をつかむ
(2)共通点を探す
(3)相違点を探す

の3つです。

「本質的なところは何か」を探す

〈考える土台をつくる頭の使い方①〉
幹をつかむ

情報を抽象化する、第1の方法は、その情報の大事なところ、本質的なところは何かを探してみることです。情報の枝葉を外して幹の部分をつかまえるといってもいいかもしれません。

それには、「一言で簡単に表現してみる」ことが有効です。

あるいは「人に簡単に伝えるとしたら、何といえばいいだろう」と工夫してみるといいでしょう。情報の本質を理解するには、一言でその情報を表現してみることがとても役に立つと思います。

例えば、政治のニュースを見て、大事だなと思ったとしましょう。あるいは誰かのブログを見ておもしろいなと思ったとしましょう。そうしたら、それがどんな点で大事だと思ったのか、どんなところがおもしろいと思ったのかを、友人や知人に一言で伝えるようにするのです。

もちろん、本当に伝えなくてもかまいません。伝えるつもりになって考えてみる、あるいは書き出してみる。それが、情報の幹をつかむことであり、抽象化の大きな一歩になります。

このように書くと、「どこが重要か、自分にはよくわからないのです」「間違ったところを、大事だと捉えてしまわないか心配です」という声がよく返ってきます。しかし、これは正解を見つけないといけないという考え方に縛られている発想です。

自分が大事だと感じることに、正しいも間違っているもないのです。正解などありません。その人自身が、大事だ、興味深いと思うことをピックアップすればいいのです。それによって、その人ならではの思考法が育ってくるのですから。言い換えると、そこはむしろ、独自性があったほうがいいのです。

また、重要だと感じるポイントも、さまざまな側面が考えられます。例えば、ある会社の不祥事がニュースで報道されたとしましょう。その際に、不祥事が生じた原因が重要だと感じる人もいれば、不祥事が明らかになったプロセスが大事だと感じる人もいるかもしれません。あるいは、不祥事の結果生じるリストラや業績悪化の可能性を気にする人がいてもおかしくありません。

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