最新記事

株の基礎知識

サウジ石油施設攻撃などの地政学的リスクは株価にどう影響するか

2019年12月5日(木)11時55分
星野涼太 ※株の窓口より転載

これらの株価は、事件後に大きく上昇した。その理由を細かく解析すれば、「石油生産能力が低下したことで生産量が減少する→原油の世界的需給バランスが崩れる→原油価格が上昇する→石油関連企業の利幅が大きくなる」という流れが連想された、ということになる。

この例に限らず、他のテロ攻撃や紛争、ハリケーンの到来などによって原油生産の停滞が予想される際にも、このような株価上昇は頻繁に起こる。しかし、買われすぎと考えられることも多くの場面で見受けられる。

■投資家はどう考えればいいのか

株式の価値は将来の継続的な利益水準に依存している。そのため、株価が長期的に上昇する(または上昇した後で長期的にその水準が維持される)ために重要なのは、「その材料が利益の増加にどれだけ長期的に寄与するか」だ。

ここでいう「長期」とは5~10年以上を想定している(機関投資家の行うファンダメンタルズ分析も、5~10年以上の業績予想がベース)。

たとえば、今回のサウジアラビア石油施設攻撃に関して考えてみたい。

原油の需給が逼迫して原油価格が上昇した場合、確かに石油関連企業の収益性は向上する。しかし、その効果はどの程度、続くのだろうか。ポイントは「原油生産が回復するまでに、どの程度の時間が必要か」だ。回復すれば需給バランスは元に戻り、価格・利幅も元通りとなってしまう。

「石油施設が攻撃を受けて、生産能力の半分が失われた」と聞いて、その回復までにどれだけの期間が必要だと思うだろうか。1カ月、3カ月、半年、1年、3年......もしかしたら、わずか1週間?

■損失を避ける鍵となるもの

今回の攻撃では、サプライズ的にわずか1週間ほどでほぼ回復したと報じられた。では、3カ月かかると思った投資家は失敗なのかといえば、決してそうではなく、成否を分けたのは「さすがに5年はかからないだろう」という感覚だ。

株価の話とつなげると、需給の逼迫による原油価格の上昇とそれによる関連企業への恩恵が、長期(5年)にわたって続くと想定したか、それとも短期的なもので終わると考えたか。

結果論となるが、今回の事件後に上昇した石油関連銘柄の多くは、その後1カ月足らずで株価の上げ幅をほぼ失い、以前の水準に戻ってしまった。

このように、事件発生直後の株価上昇を目にした際には、「その高い水準が長く続くのか、またはすぐに失速するのか」をイメージすることで損失を回避しやすくなる。あるいは場合によっては、うまく利益につなげられこともあるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、海運造船業界への米調査影響を考察 供給網の安

ビジネス

高島屋、今期営業益予想を上方修正 百貨店コスト削減

ビジネス

午後3時のドルは151円後半に下落、米中対立懸念の

ワールド

トランプ氏、26日にマレーシア訪問 タイ・カンボジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 9
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中