最新記事

投資の基礎知識

アナリストの「本音」と株価を動かす「期待」の正体、アナリストが明かす

2019年5月10日(金)13時35分
星野涼太 ※株の窓口より転載

前述の通り、ある程度の負債の活用は資本効率を高め、株主リターンの拡大へとつながるからだ。実際のところ、オリンパスにおいても不正発覚以降の負債削減局面では、株主が期待した医療事業の収益ポテンシャルが長らく犠牲となってきた。

今回の株価急騰の背景には、「ファイナンスに明るいファンドが過剰な安全運転を調整し、医療事業の成長性・収益性ポテンシャルを最大限に引き出してくれるだろう」という願望に近い予想がある、と考えられている。

【参考記事】日本の株価に大きな影響を与える「外国人投資家」の正体

アナリストのひとり言

証券会社に所属するセルサイド・アナリストとしては、今回のオリンパスのリリースを市場の反応通りポジティブな内容と評価するだろう。その理由はもちろん、前述したように医療事業の成長性・収益性拡大が期待できるからだ。

しかし、証券会社を通じて発行されるレポートでは、このシナリオはさほど広く深くは語られづらい。なぜなら、セルサイド・アナリストとしては会社側への様々な「配慮」が求められるからだ。

●アナリストが市場の"灯台"にはなり得ない理由

アナリストはファイナンスや株式市場を深く理解する者として、株価の見通しに関する意見を表明する。いわば、個人投資家含めた多くの市場参加者にとって"灯台"のような役割を担っており、その点でセルサイド・アナリストは市場の肩を持っている。

一方で、業務を行う上では上場企業(今回の場合はオリンパス)の幹部に取材を申し出て、分析の材料を仕入れなければならない。つまり、上場企業との間で信頼関係がなければ有意義な分析を行うことができず、結果として、アナリストは市場の"灯台"とはなり得ないのだ。

今回のオリンパスのような計画(外部の血を入れる)の場合、社内で満場一致の賛同を得られているケースは、そう多くない。となれば、アナリストとしては多大な期待を寄せるようなレポートを発行するのは、なかなかハイリスクな行為となる。

このリスクに対する配慮が欠けると、企業やその幹部との関係は簡単に悪化してしまう。実際、2013年には楽天<4755>が三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリストが発行したレポートについて反対意見を表明し、そのアナリストを出入り禁止とするケースがあった。

●板挟みのアナリストレポートをどう読むべきか

出入り禁止にまで至るケースは珍しいが、「売り」と評価したレポートに対して会社側から難色を示されるケースは多々ある。こうした「市場と会社の板挟み」の立場にいるのが、セルサイド・アナリストという存在だ。

それゆえ、今回のオリンパスの件をポジティブに評価するとすれば、「今後の経営計画を随時確認していきたい。負債を含めた資本構成の改善に関する計画が出てくればポジティブか」といった、低めのトーンで多少ぼかした表現になるだろう。

個人投資家の方がアナリストレポートを読むときは、こうした「アナリストの立場の違い」を理解した上で、参考にするか否かの判断をすることをおすすめしたい。

[筆者]
星野涼太(ほしの・りょうた)
外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤めておりました。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することで、読者の皆様がより堅実・効率的な株式投資を実践できるよう貢献したいと思っております。

※当記事は「株の窓口」の提供記事です
kabumado_logo200new.jpg

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード195億ドル評価損、EV需要減退で不可避=

ワールド

英、外国からの政治介入調査へ 元右派政党幹部のロシ

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

米16州、EV充電施設の助成金停止で連邦政府を提訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中