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若返りも、働き方改革も「脳のフィットネス」でうまくいく

2018年2月15日(木)18時24分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

脳は「シリアル・プロセッサー」

もちろん本書では、著者の本業分野である「脳の知見を活かして、仕事の効率を高める」方法についても具体的に紹介されている。日本で働き方改革が叫ばれるなか、「生産性を上げる=より多くの仕事をこなす」と捉えられがちだが、脳の機能を考えると、実は逆効果だ。

私たちの脳というのは、そもそも「シリアル・プロセッサー」なのだという。つまり、認知に関わる作業をひとつずつ順にこなしていくことしかできないのだ。それゆえ、マルチタスクをすることによって生産性は40%低下し、最大で50%もミスが増えると推計されている。

さらに面白いことに、「自分はマルチタスクが得意」だと思っている人ほど、実際にはその反対で、マルチタスクが苦手であることが多い、という研究結果があるという。要するに、自分ではどんどんタスクを片付けている気になっているが、実はどれも十分にこなせていない......ということだ。

というのも、マルチタスクによってIQ(知能指数)は最大15ポイントも下がってしまうらしく、これは徹夜明けの頭がボーッとした状態に近いという。もしくは、8歳児の平均IQと同等の水準だというのだ。

こうした事実だけでも、マルチタスクはもうやめよう、という気にさせられるのではないだろうか。

脳に働き掛ければ身体が若返る?

生産性を高めるには、脳への無用な負荷を減らし、賢く効率よく働くようにすることがポイントになるが、一方、創造力や記憶力を高めるためには、脳の持つポテンシャルを広げることが必要だ。本書では、そのための「エクササイズ(いわば『頭の体操』)」も数多く紹介されている。

よく「人は脳の10%しか使っていない」という言い方をされる。じゃあ、残り90%は無駄になっているのかというと、そうではないと著者は言う。もし本当に使っていない部分があるのなら、それは進化の過程で形を変えているはずだからだ。

「人は脳の10%しか使っていない」というのは、脳が持つポテンシャルの10%ほどしか引き出せていないということ。つまり、私たちの脳にはまだまだ秘めた能力があるのだ。そのひとつの例として本書で紹介されているのが「若返り」だ。

70〜80代の男性に1週間、若い頃に戻ったような生活をしてもらったところ、身体が強く柔らかくなり、視力や記憶力が高まった人もいたという。また、「活発なライフスタイル」をするよう指示されただけで、女性のスタイルが良くなり、血圧が10%も低くなった、という実験結果もある。

今、脳の健康が人々の関心を惹きつける理由のひとつは、人の寿命がどんどん伸びていることだろう。誰もがこう願っている――「健康に長生きしたい」。脳について知り、その健康を保つことは、認知症のリスクを減らすことにも大いにつながるのだ。

著者も言うように、「脳は、私たちがすることのすべてに関わっている」。だが、私たちには脳に関する知識が不足しており、誰も使い方を教えてもらっていない。脳の機能の全てが解明されているわけではないだろうが、本書は、今日から始められる身近なヒントが詰まったマニュアルだ。


『脳のフィットネス完全マニュアル』
 フィル・ドブソン 著
 斉藤裕一 訳
 CCCメディアハウス

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