たった13坪で1300冊を売る町の書店──元シンクロ日本代表と恩師・井村雅代コーチの物語

2025年6月13日(金)15時21分
川内 イオ (フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

「本を通じた交流」を諦めたくない

書店が注文していない本が取次から勝手に送られてくる「見計らい配本」(隆祥館書店には2年前に発売されたムック本が届いたことがある)や、取次がアマゾンに対抗するという名目で立ち上げながら、注文すると本の料金の8%を書店から徴収する高速配本システム「ブックライナー」(書店の利益は書籍代金の約20%なので、注文するだけで12%に減る)など、ほかにも書店に不公平な仕組みが残る。

この問題は根深く、実は父・善明さんも公正取引委員会に訴えることで、流通の一部改善にこぎつけた過去がある。善明さんの姿を間近で見てきた二村さんも泣き寝入りすることなく声を上げてきたものの、立場の弱い個人書店で後に続く人は少数で、孤独な闘いを強いられてきた。だから、「しんどい」。それでも、二村さんは書店を続ける道を選んだ。


「本を通じて作家さんにも、お客さんも会える。それが自分にとってはすごく嬉しいことなんですよね。本屋を辞めてビルを売ったら楽になるかもしれないけど、この喜びを失いたくないと思ったんです。私は本を通じて人と交流したいんだってわかりました」

今も変わらずこの思いを持ち続けているから、二村さんは今日も店頭に立つのだ。

リアル書店が生き残るヒントがここにある 筆者撮影

リアル書店が生き残るヒントがここにある 筆者撮影

2003年に2万880店舗あった書店は、2023年には1万918店舗に半減した(日本出版インフラセンターによる)。アマゾンの台頭、スマホの普及、電子書籍の登場などその背景にはさまざまな理由が考えられるが、隆祥館書店のお客さんの声を聞くと、「町の本屋さん」にもまだまだ可能性があると感じる。女性の常連客は、こう話す。

「大きな本屋さんは、新刊が並んでいて、そこから選ぶという感じなんですけど、隆祥館書店は、店長さんが『どんな本が好きですか?』『普段どんなことしてますか?』ってすごく親身に話を聞いてくださって。例えばその時に、『日本酒が好きです』と言ったら、『それならこの本は?』ってすぐに出てくるところがすごく楽しいんですよね。以前、自分では選ばないような本を勧めてくださって、最初は『こんな本読むかな』と思ったけど、読んでみたら面白かったんです。自分だけだったら選べなかった本と出会わせてもらってから、ここに通うようになりました」

このお客さんは、「仕事で疲れたなっていう時に寄りたくなるんです。ここで宝物を探すみたいな感じ」とほほ笑んだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月FOMC「ライブ会合」、幅広いデータに基づき

ビジネス

10月米ISM製造業景気指数、8カ月連続50割れ 

ビジネス

次回FOMCまで指標注視、先週の利下げ支持=米SF

ワールド

イラン最高指導者が米非難、イスラエル支援継続なら協
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中