最新記事
破産

米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事にした女性たちが抱えたもの

The Hooters’ Dynamics

2025年5月16日(金)15時33分
ドーン・シマンスキ(米テネシー大学教授)
米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事にした女性たちが抱えたもの

あなたのチアリーダー(2003年、コロラド州デンバーのフーターズ/現在は閉店) BRIAN BRAINERDーTHE DENVER POST/GETTY IMAGES

<米外食チェーン大手フーターズの経営破綻で改めて考える、豊かな胸(ブレスト)を強調した服装で接客する女性たちは何を手に入れ、何を失うのか>

1983年に6人のビジネスマンが米フロリダ州クリアウォーターで1号店を開いた「フーターズ(Hooters)」。露出度の高い衣装のウエイトレスが、特製のチキンウィングを運ぶ。

フーターズの大成功を手本に、女性が豊かな胸(ブレスト)を強調した服装で接客する「ブレストラン」が注目され、ティルテッド・キルト・パブ&イータリーやツイン・ピークスなどが後に続いた。今から10年以上前、ブレストラン業界では多くのチェーンが売り上げを伸ばしていた。


しかし、今やフーターズの売り上げは減少し、約3億ドルの負債にあえいでいる。昨夏には全米で40店舗以上を閉鎖。今年3月末、米連邦破産法の適用を申請した。

フーターズの店舗が完全に姿を消すと決まったわけではないが、「フーターズガール」として働く女性と、客が彼女たちを性的な目で見つめる機会は確実に減るだろう。

私は心理学者として以前から、ブレストランで働く人々の心理的な力学に関心があった。容姿を褒められれば気分が良いものだが、常に批評されていると精神的に疲弊するだろう。フーターズのような場所で働くというのは、どういうことなのだろうか。私たちの一連の研究からいくつかのことが分かった。

ブレストランのマネジャーは、他のレストランより従業員の容姿や立ち居振る舞いを厳しく管理しようとする。私たちが話を聞いたブレストランで働く女性の中には、「いつカメラで撮られてもいいように」しておくことを指示されている人もいた。

ある女性は「爪、髪、メイク、歯磨き、デオドラントの使用」など、あるべき外見の厳格な基準が記された冊子を渡された。体重と身長を維持して、勤務中は必ずメイクをし、髪形も変えないと約束させられたという。

入念に作り上げられた外見に加えて、自信に満ち、朗らかで、魅力的で社交的、さらには感情的にタフであることも求められる。男性客に自分は特別だと思わせ、彼らの「個人的なチアリーダー」になり、決して彼らに逆らってはいけない。

言うまでもなく、こうした要求は非現実的でもある。話を聞いたウエイトレスの多くは感情的に疲れ果てて、ついには仕事に嫌気が差したと語っている。

すぐ替えが利く女の子

フーターズのウエイトレスが卑猥な発言や性的な誘いなど、客からのセクハラ行為を頻繁に経験することには驚かない。しかし、客のこうした行為を店が容認しているため、心理学でいうダブルバインド(二重拘束)のストレスが加わる。これは矛盾するメッセージに混乱して、適切な対応が取れなくなる状態のことだ。

例えば、いつもチップを多めに弾む常連客が、ウエイトレスを口説こうとする。彼女は客に特別感を抱かせるように指示されている。一方で、彼女は気味が悪いとも感じ、そんなふうに言い寄られる自分には価値がないと思う。しかしチップをたくさんもらってしまった。彼女は誘いを拒絶するべきだろうか。

ブレストランは従業員がセクハラに遭いやすいことを認識しており、境界線を決めて、従業員を粗末に扱う客を追い出すのではないかと思うかもしれない。しかし、ブレストランのウエイトレスは、他の飲食店より経営者や同僚のサポートが少ないのだ。

「残念ながら、彼女たちはいくらでも替えが利く女の子として扱われている」と、ブレストランの元ウエイトレスで企業の研修講師としても働いていた女性は語る。

同僚のサポートに関しては、ウエイトレスは団結するというより、ボスにえこひいきしてもらおう、良いシフトに入れてもらおう、昇給してほしいと競い合うことが多い。陰口や悪口、スケープゴートにすることも日常茶飯事だ。

性的対象にされ続けて

このような環境で働くことは、感情面と心理面にどのような負担を与えるのだろうか。心理学者のバーバラ・フレドリクソンとトミ・アン・ロバーツが指摘しているように、女性が男性より影響を受けやすいメンタルヘルスの問題は、性的な対象にされる経験と結び付いている場合も多い。

実際、私たちの研究で分かったように、ブレストランで働く女性は他の飲食店で働く女性より鬱や不安、摂食障害の症状を訴える人が多い。

また、彼女たちはもっとスリムになりたいと思っており、体重や外見をより頻繁にチェックして、自分の体に不満を感じている。

こうしたことを考えると、そもそも彼女たちはどうしてフーターズのような店で働くのだろうと、疑問に思う人もいるだろう。

私たちが話を聞いた女性たちは、ブレストランで働くのは、より多く稼ぎたいから、より柔軟性の高い働き方をしたいからだと語っている。普通のレストランや他の「まともな」仕事よりも稼げると、多くの人が指摘した。

あるウエイトレスは、以前はありふれたレストランで働いていた。「そこも良かったし、まあまあ稼げた。でもフーターズでは......1回のシフトで数百ドルを手にできた」

私たちが話を聞いた女性は全員が大学生か母親で、勤務スケジュールの柔軟性といううまみを得てもいた。

成長過程で性的対象として扱われた女性や、美人コンテストやチアリーダーなど、外見が重視される活動に参加したことがある人もいた。そうしたことが、ブレストランで働くという決断に影響を与えた可能性は高いだろう。思春期の経験から、大人になっても同じような環境にいつの間にか引き寄せられるのだ。

しかし、そうだとしても、ブレストランで働くことの金銭的な報酬や時間の柔軟性は、潜在的な心理的コストに見合うものではないだろう。

The Conversation

Dawn Szymanski, Professor of Psychology, University of Tennessee

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格、7月前年比+2.6%で変わらず コア

ビジネス

独CPI、8月速報は前年比+2.1%に加速 予想上

ワールド

タイのペートンタン首相失職、倫理規定に違反 憲法裁

ビジネス

中国大手行が上期決算発表、利ざや縮小に苦戦 景気低
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中