最新記事
投資

中国人の仏ワイナリー「爆買い」が止まらない ...投資家たちの 「本当の」 狙いと成功のカギとは?

CHINESE CHATEAUX

2024年8月28日(水)13時23分
アレクサンドル・ボア(ESSCA経営大学院教授)、ピエールグザビエ・メスキ(エクスマルセイユ経営大学院教授)
ブドウ畑

JillWellington-Pixabay

<フランス・ボルドー地方の名門シャトーが次々と中国人の手に。買収で廃れるシャトーも栄えるシャトーもあるが、その差はどこにあるのか──>

2012年以降、フランスのボルドー地方では、中国の投資家に買収された名門シャトー(ワイン醸造所)が200以上に上る。

有名なところでは、電子商取引大手アリババの共同創業者であるジャック・マーが、アントゥル・ドゥー・メール地区のシャトー・ドゥ・スールなど、いくつかのシャトーを購入している。俳優で映画監督のビッキー・チャオもサンテミリオン地区のいくつかのシャトーを買収した。


このような名門シャトーの買収は、ファイナンス論の研究者から酷評されることが多い。シナジー効果をほとんど、もしくは全く生み出さず、失敗することが避けられないように見えるためだ。

実際、中国の投資家に買収された後、そのまま放置されて廃れてしまったボルドーのシャトーは少なくない。新しいオーナーが当初の情熱を失い、再び売りに出されたケースも50件ほどあるという。

しかし、もう少し丁寧に検討すると、中国人によるシャトーの買収が全て失敗に終わっているわけではない。

筆者らは、08~15年に中国人投資家により買収されたボルドーのシャトー123カ所について買収後の成績を調べてみた。すると、買収が実際に価値を生み出しているケースもあった。

買収動機がカギを握る

ただし、それは経済的価値ばかりとは限らない。新しいオーナーは、シャトーを所有することにより、社会的な威信を得ている場合がある。

そのようなオーナーは、買収したシャトーを自分の分身のように考え、ことのほか大切にする。施設を改修したり、最新の醸造技術を導入したり、トップクラスの醸造家を招いたり、ワイン畑の木を植え替えたりするのだ。

そうした努力の結果、シャトーが経営破綻を回避し、有力なワインガイドのランキングで順位が上昇する場合もある。アシェット社のワインガイドでは近年、中国人が所有するシャトーのいくつかが目覚ましい躍進を遂げている。

香港で金融業と通信業で富を築いたアンドルーとメロディーのクック夫妻は13年、ポムロール地区のシャトー・ラ・コマンドリーを購入した。夫妻が設備と建物の改修に力を入れた結果、このシャトーで生産されるワインは、数年でボルドーワインのランキングの常連になった。

メディアで大々的に取り上げられるのは主として、既に社会的地位を確立している中国人大富豪がシャトーを買収した事例だ。そのようなケースは、新しいオーナーが自身の社会的地位を高めるという明確な戦略の下でシャトーを買収するケースとは明らかに性格が異なる。

既に社会階層の頂点に立っている人たちは往々にして、シャトーを買収しても経営にはあまり真剣に取り組まない。この場合、シャトーの成績は買収後に悪化することが少なくない。

結果を分けるのは、新しいオーナーがシャトーの所有を通じて国際的エリートへの仲間入りを狙っているかどうか。それによって、ワインは甘くもなれば酸っぱくもなる。

The Conversation

Alexandre Bohas, Professeur d'Affaires internationales, ESSCA School of Management and Pierre-Xavier Meschi, Professeur des Universités en sciences de gestion, Affillié à Skema Business School, IAE Aix-Marseille Graduate School of Management - Aix-Marseille Université

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「引き締め的な政策」望む

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中