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考えが深い人になるには? 「具体」と「抽象」で世界の解像度を変える【思考法】

2024年8月8日(木)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

3ヶ月で5キロ痩せるのか、10年で20キロ痩せるのか

逆に今後10年ぐらいの長期を考えた場合、本当の目標は何だろう? 別に、10年で20キロやせるために3ヶ月で5キロやせる目標を立てたわけではないだろう。今後10年でアイスクリームを食べる回数を決めたいわけでもない。おそらくは、スタイルをよくしてもてたいとか、健康な体を作りたいからダイエットするわけだ。このように、考える期間を長期に延ばすと、目標は「もてたい」とか「健康」のように抽象的な言葉に変わってくる。

「今後10年健康であるために、まずは体重を3ヶ月で5キロ落とす。そのために今週はアイスクリームを1つしか食べない」と言うと自然だが、以下のように抽象と具体を入れ替えて言うと非常に不自然だ。「今後10年でアイスクリームを500個しか食べないために、まずは体重を3ヶ月で5キロ落とす。そのために今週は我慢する」

企業の目標でも、1年単位の短期目標は具体的な数値目標がよいとされるが、数十年単位の長期理念は抽象的にならざるを得ない。

「今年の目標は売上高50億円です」と言うのは具体的でよい。しかし、「20年後には売上高500億円を目指します」と言っても、数字は増えているのにもかかわらず、細かいお金しか見えていない懐の小さい会社に聞こえてしまう。

《右》ほど本質的であり、《左》ほど実用的である。

私がサラリーマンを辞めてビジネスの勉強をはじめた頃、「トップセールスが語る、売上を上げる14の秘密」という営業のセミナーに出たことがある。そこでは、初対面のお客さんと何を話すのかとか、購入を断られたときにどうするのかといったことが説明されていて、たぶん3時間ぐらいの内容で、確かに14個のテクニックが語られていたと思う。

最後に、質疑応答の時間があったので講師の方にこう質問した。「つまり、お客様との信頼関係を築くことが大事ということですか?」。講師の返事はこうだった。「その通りです」。なんと、3時間かけて説明された14個のテクニックは、「お客様との信頼関係」というたった9文字にまとめることができたのだ。

教育の目指すものは小手先のテクニックではない

自分が教える立場になってよくわかったのだが、ビジネスにしろ学校の勉強にしろ、先生が生徒に教えたいのは、場所や時代で変わらない「本質」である。小手先のテクニックではない。ところが、いくら「お客様との信頼関係が大事です」などと抽象的な言葉で語っても、それはなかなかうまく伝わらない。たとえ伝わったとしても、具体的に何をすればいいのかがわからない。

抽象的な《右》の世界ほど、少ない言葉で本質を表すことができる。古今東西、時代や場所が変わっても、その本質は変わらないという素晴らしさがある。「営業ではお客様との信頼関係が大事です」という本質は、日本でもアメリカでもフランスでも、時代がどんなに変わっても正しくあり続けるだろう。

ただし、この抽象的な本質は、そのままでは役に立たないという欠点がある。営業するときに知りたいのは、やっぱり初対面のお客様に何をしゃべればいいかとか、購入を断られたときにどうすればいいかというような、具体的なテクニックのほうだろう。そう、具体的な《左》の世界ほど、実用的であるというメリットがあるのだ。

少し余談になるが、人に何かを伝えるときは、「抽象的な本質」と「具体的な例」を両方伝えると非常にわかってもらいやすい。つまり、両方とも大事なのだ。

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