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マクロスコープ:「高市補正」へ議論本格化、政府内に大規模化は不可避の声

2025年10月31日(金)14時45分

 高市早苗(写真)政権による最初の予算編成となる2025年度補正予算関連の議論が間もなく本格化する。10月24日、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 31日 ロイター] - 高市早苗政権による最初の予算編成となる2025年度補正予算関連の議論が間もなく本格化する。「責任ある積極財政」を掲げる高市氏だけに、首相就任以降、財務省を中心に補正の大規模化を警戒する声が出ていた。その流れは現在も続いており、政府内には昨年度補正予算の13兆9000億円を上回る「大規模化は不可避だ」との見方が広がっている。

「『責任ある積極財政』は未来への希望と未来への投資、そして不安の払しょくだ」。片山さつき財務相は30日、テレビ番組のインタビューでこう述べた。「投資は各国との競争もある。集中投資のタイミングなどを考えず我慢する意識が蔓延していた」と問題意識を述べた上で、「それを変えようというのが『責任ある積極財政』だ。財政規律をまったく気にしなくていいということとは違う」とも語った。

<「大規模化は不可避」の声>

すでに財務省内では高市氏の指示を受け、補正予算編成に向けた作業が動き始めている。自民党や日本維新の会の幹部に加え、各省庁との協議も活発化している状況だ。11月に入れば与野党から経済対策に関する提言が相次ぐ見通しで、それらを加味して最終的な補正予算案を策定することになる。

こうした中、政府関係者は早くも「補正規模は昨年度を上回ることになる」と語る。「成長投資と危機管理投資」を重視する高市氏の希望に沿った「政治的な意味合いが強い補正」になる見通しだという。同関係者は「高市氏は『これまでの政権とは違うところを示したい』という思いが強い」と解説する。財務省関係者も「大臣が誰であろうと、高市氏が首相である以上補正予算の大規模化は不可避だ」と述べた。

<しぼむ「維新への期待」>

日銀が30日の金融政策決定会合で利上げを見送ったこともあり、足元では円安の進行が続く。大規模補正で円安圧力が強まれば、さらなる輸入物価の高騰が家計や中小企業を圧迫しかねない状況とも言える。総務省が31日に発表した10月の東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年比2.8%上昇。水道基本料金無償化の終了という特殊要因はあったものの、伸び率は前月の2.5%から拡大した。内閣府が試算した4―6月期の需給ギャップもほぼゼロだ。

財務省内には自民、維新の連立政権樹立以降、「小さな政府」を標榜する維新が、積極財政を掲げる高市氏の「ブレーキ役」を期待する向きもあった。ただ、連立発足から10日余り。維新が政策面でどこまで自民への影響力を発揮できるかは不透明なままだ。前出の政府関係者は「維新は連立合意で満足してしまっているように見える。政策立案能力に長けた自民を抑え込むだけの力はないのかもしれない」と話した。

<「大幅増額ほど政策あるか」、「景気懸念の局面だ」>

「高市補正」を専門家はどうみているのか。

農林中金総合研究所理事研究員の南武志氏は「高市政権はアベノミクスの再来と言われ、官邸主導で政策運営する姿勢を明確にしている」と分析。「補正予算の規模は昨年度を上回るだろうが、どの程度上回るか現時点ではみえない。大幅な予算増額を実現するほどの政策コンテンツがあるとは思いにくい」と指摘する。その上で、自民党の税制調査会メンバーに積極財政派が目立つ点に触れ、「財務省でなく議員主導で政策を決めていく方向は評価すべきだが、歯止めの議論がしにくい可能性は懸念される」と語った。

一方、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの会田卓司氏は「需給ギャップはゼロになったが、高市政権はこれを高圧経済政策でプラス2%程度の需要超過に押し上げることを目指して大規模な補正予算の検討を始めている」と話す。

積極財政による弊害の有無については、「順調な企業収益と世界経済減速により企業の資金需要がネットベースで消滅しているため、大規模補正による金利上昇は懸念する必要がない」と指摘。「為替が現状の水準で安定的に推移するのが望ましいが、経済対策による内需拡大が本格化すれば金利先高観から自然に為替は円高方向に転じる」と見通した上で、「米連邦準備理事会(FRB)が利下げを決めたのは、米国、世界経済の見通しが厳しいためだ。日本の7―9月期GDPもほとんどの民間エコノミスト予想では前期比マイナスとなっており、景気は懸念すべき局面にある」と述べた。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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