最新記事
労働環境

「生産性アルゴリズム」とは?...アマゾンの物流倉庫労働者の安全に懸念

2024年7月11日(木)19時06分
アマゾン物流施設

7月5日、昨年2月、米ニューヨーク州にあるアマゾン・ドット・コムの物流倉庫での重い箱を持ち上げる過酷なシフトを終え、翌朝目覚めた時、キース・ウィリアムズさんの手と手首は動かなくなっていた。写真は2023年7月、ニューヨーク州メルビルのアマゾン物流施設で撮影(2024年 ロイター/Soren Larson)

昨年2月、米ニューヨーク州にあるアマゾン・ドット・コムの物流倉庫での重い箱を持ち上げる過酷なシフトを終え、翌朝目覚めた時、キース・ウィリアムズさんの手と手首は動かなくなっていた。牛乳を入れた水差しを持つのさえおぼつかない。

ウィリアムズさんによると、アマゾンは個々の労働者の生産性を正確に測定し、猛烈な作業ペースを強いていた。


 

「箱をスキャンするスピードが基準に達していなければ、リストに載せられる。私の体には耐えられなかった」と語るウィリアムズさんは、全米トラック運転手組合(通称チームスターズ)と組んで倉庫従業員の労組を結成することに取り組んでいる。

こうした負傷に対処するため、連邦議員は倉庫労働者保護法案(WWPA)を提出した。物流施設業界における生産性目標を特に厳しく規制する包括的な連邦法案だ。

物流施設業は全米で最も急成長している産業のひとつであり、200万人近くを雇用している。

しかし法案を提出したエド・マーキー上院議員は、企業は「労働者を使い捨てのように扱っている」と語った。

「労働者は、職場における基本的な安全、尊厳、尊敬を保証する、一貫性を持った信頼に足る基準を適用されてしかるべきだ」と提言する。

WWPAは企業に対し、どんなノルマや生産性目標を課せられているかを労働者に伝えるよう義務付けている。それらを知らないと、もっと急いで大量に作業をこなさなければならないというプレッシャーを感じることがあるからだ。米国各州には同様の法案が十数件ある。

WWPAはまた、労働者を危険にさらすと当局が判断した基準を、雇用主が労働者に課すことを禁じている。

米商工会議所は、物流施設業界に過度な負担を課すとして法案に反対している。

マーク・フリードマン職場政策担当バイスプレジデントは「連邦政府による押し付けがましい管理だ」と指摘。物流施設業者はすでに労働者の安全確保を目指しており、規制当局が企業に生産性の監視や達成方法を指示するのは不適切だと述べた。

カリフォルニア州は6月、WWPAと類似した州法に基づき、アマゾンに対して生産性目標の開示を怠ったとして同法による過去最大の罰金、約600万ドル(9億6450万円)を科した。

同様の罰金は、ディスカウント小売りのダラー・ゼネラルや食品流通のシスコにも科されている。

アマゾンは罰金を不服として上訴。広報担当のモーリーン・リンチボーゲル氏は声明で「従業員の健康と安全ほど重要なものはない」と述べた。

アマゾンは、成果の問題で解雇された労働者はごく少数であり、労働者は期待される成果について上司と自由に話し合うことができると説明した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行ったと批

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン

ワールド

焦点:中国、社会保険料の回避が違法に 雇用と中小企
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子、ホッキョクグマが取った「まさかの行動」にSNS大爆笑
  • 3
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラドール2匹の深い絆
  • 4
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    海上ヴィラで撮影中、スマホが夜の海に落下...女性が…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中