最新記事
学歴社会

大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなアメリカンドリームの現実「学歴社会」に待ったの兆し

2024年5月1日(水)11時31分
バティア・アンガーサーゴン(ジャーナリスト)

2010年から16年にかけて、大卒未満の人が就ける仕事の新規雇用は100件に1件しかなかった。その6年間に創出された1100万件の雇用のうち、4分の3は大卒以上の学歴が必要だった。

この壊滅的な傾向を逆転させるために必要なことは何か。その1つは、実際には大学教育など必要としない職種でも大卒の資格を要求する風潮を改めることだ。

 

そうした取り組みは実際に進行中だ。新型コロナのパンデミックで人材不足に陥った企業は、より多くの応募者を集めるために大卒の資格要件を撤廃し始めている

代表的なのがウォルマートだろう。 同社では管理職の75%が一般の店員から登用されている。中には上級管理職に就いた人もいる。

ウォルマートのウェブサイトにはこうある。「アメリカの雇用市場には就職や昇進に大卒資格を必要としない職種がたくさんあります。実際、ウォルマートでは大卒でない人も店長になれます。ちなみに店長の平均年俸は23年度実績で23万ドルです」

ウォルマートはまた、大学で教わる特定のスキルが必要な職種の場合、会社が費用を負担して従業員を大学に通わせている。

職員の採用における学位要件を撤廃した州もある。ペンシルベニア州とユタ州、コロラド州、メリーランド州は大半の職種で4年制大学の学位取得要件を撤廃した。ジョージア州とアラスカ州も後に続いた。

おかげで、学歴不足ゆえに排除されていた人々に多くの門戸が開かれた。大学教育など必要としない仕事から多くの人を締め出してきた昨今の流れが変わり始めたようだ

冒頭のニコール・デイに、改めて聞いてみた。大学で教わるスキルなど実際には使わない職種で、採用時に大卒資格を条件としない企業が増えてきたけれど、これはあなたにとってプラスになる?

「そうね、プラスになるケースはたくさんあると思う」と、彼女は答えた。

「でも、全てのケースがそうだとは言わない。会社によって違うし、職種によっても違う。少しはチャンスが増えるでしょうけど」

「何歳になっても学校に戻れるとよく言われる」と、彼女は続けた。

「でも今さら1日4時間とか8時間も学校に通って、返せる当てのない学生ローンを背負い込むなんてとても無理」

無理なだけでなく、不公平だとニコールは思う。なぜなら、彼女には大卒の新人にはない何かがあるからだ。

「私には大卒の人よりずっと多くの経験がある。でも、採用担当者に見せる卒業証書がない。1枚の紙切れのほうが、年かけて積み上げた経験よりも大事ってわけね。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ安全保障に欧州主導の平和維持部隊 10カ

ビジネス

米ボストン連銀総裁、FRB利下げ支持も「ぎりぎりの

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年

ビジネス

カナダCPI、11月は2.2%上昇で横ばい コアイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 6
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 10
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中