最新記事
金融

24時間で5.5兆円が流出 シリコンバレー銀行破綻に見るデジタル時代の「取り付け騒ぎ」

2023年3月23日(木)11時09分
ロイター

SVB破綻後、米当局が預金全額を保護すると決定したことは多くの関係者を驚かせた。複数の専門家は、他の銀行からの預金流出に対して当局が、必要十分な懸念を有している表れだと話す。

ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ベロン上席研究員は「預金者がこれほど素早く動くことはなかったということが、預金全額保護決定の土台になったのだろう。SVBの預金流出(のペース)は未曽有だった」と解説した。

対話戦略の欠如

銀行業界の何人かの関係者は、新たにSVBのような破綻が起きるリスクは小さいと主張している。

その理由として、SVBの顧客層がハイテクとベンチャーキャピタル起業家という「仲間内」で固められ、ソーシャルメディア主導の預金取り付けに対して際立って脆弱だったという点を挙げた。

カリフォルニア州に拠点を置くベネフィシャル・ステート銀行のランデル・リーチ最高経営責任者(CEO)は「SVBは影響力の中心に位置し、このエコシステムに事業が集中していた。それは、別のさまざまな分野で展開している他の銀行とは異なる」と指摘した。

それでも世界各地の預金者は、たとえ自分の取引先銀行の経営が健全だと考えていても、なお安全策を講じつつある。

ドイツのあるバイオテクノロジー投資家はクレディ・スイスと取引があったが、UBSの救済合併合意以前に取材したところ、クレディ・スイスは「良い銀行」と信じているとしながらも、個人の預金を別の金融機関に移したと明かした。「SVB(の破綻)で、預金がどれほどあっという間に消えるかが分かった」という。

コーネル大学のダン・オーリー教授(法学)は、SVBの余波が大きくなったのは、当局のコミュニケーション戦略が欠如していたからだとの見方を示した。

本来なら、SVBが破綻した10日午前から週末が終わるまでに当局が「SVBは特異な事業モデルを構築しており、他の銀行はそれほど危険ではない」と説明すべきだった。だが、それをしなかったことで全ての預金者が自分のお金を心配し、金融システムの緊張が増幅されてしまったという。

実際、米国の地銀に重圧が広がり、ファースト・リパブリック銀行株は流動性を巡る懸念から20日に47%も値下がりした。

野村ホールディングスのデジタル資産子会社、レーザー・デジタルのジェズ・モヒディーンCEOは、SVBの騒ぎとソーシャルメディア上で常に思惑が行き交う現実を考えると、銀行は週末を含めて1年365日、24時間のサービス提供体制構築を最終的に迫られるのではないかとみている。

ボストン・カレッジのパトリシア・マッコイ教授(法学)は、当局側もソーシャルメディアを常に監視し、銀行の対処方法に関する指針の整備が必要になると指摘。「ソーシャルメディアで根拠不明のうわさが出回ってパニックが起き始める兆しがないか、四六時中目を光らせていなければならない」と付け加えた。

(Hannah Lang記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ・英首脳が会談、軍事共同生産構想を発表

ビジネス

関税の影響「予想より軽微」、利下げにつながる可能性

ワールド

イラン、カタールの米空軍基地をミサイル攻撃 米側に

ビジネス

米総合PMI、6月は52.8に低下 製造業の投入価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中