最新記事

日本経済

春闘15日が最大のヤマ場 賃上げと株価、業績裏付けある先行企業が優位に

2023年3月15日(水)12時35分
こぶしを振るUAゼンセンの松浦昭彦会長たち

3月9日に春闘決起集会を行った日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長ら Androniki Christodoulou - REUTERS

日本企業でもようやく賃上げの動きが広がってきた。しかし、理由の多くは需要増ではなく、物価高や人手不足などコスト増であり、株価の反応もまちまちだ。業績の裏付けがある先行企業はポジティブな評価が多いものの、長期的な株価上昇要因となるには持続的な賃上げを実施できるかが焦点となる。

先行企業は業績期待も

DMG森精機は昨年8月、2023年4月入社の新入社員の初任給を引き上げると発表した。博士課程の修了者では、月額の基本給を11万1510円引き上げ47万5000円と30%増になる。

同社は22年12月連結営業利益が前年比78%増と業績が好調でもあり、株価は賃上げ発表日から31%上昇。同期間の日経平均株価の上昇率7.5%を大きく上回っている。

松井証券の投資メディア部長・窪田朋一郎氏は、先陣を切って賃上げできる会社は企業業績がしっかりしているとの思惑につながりやすいと話す。1月に賃上げを発表したオリエンタルランドも発表1カ月後の株価の伸びが4%と、同期間ほぼ横ばいの日経平均よりもパフォーマンスが高い。

ただ、DMGやオリエンタルランドのケースは例外的で、全体としては賃上げと株価との明確な関係性は見い出せない。多くの企業が賃上げの理由を物価高や人手不足としており、業績の裏付けがあるかどうかは個別企業によるためだ。

持続性が焦点

焦点は、賃上げが一時的なものにとどまらず、持続性を伴うかどうかだ。少子高齢化を背景に日本の労働人口は減少が見込まれる一方、生産性の向上には不透明感が濃い。

JPモルガン証券のチーフ株式ストラテジスト・西原里江氏は「長年、消費者が抱えていたデフレマインドは解消されつつあり、企業が価格転嫁をしやすい環境が整ってきているため賃上げは続く」とみる。

日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト・神山直樹氏も、景気後退とならなければモノや人材の不足が続くため、「メインシナリオではないが、目先2―3年は賃上げが続く確率が高まっている」との見方を示す。

賃金上昇が続けば「賃上げできる企業とそうでない企業の二極化や選別が進み、日本経済の新陳代謝が上がる」(GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー・池田隆政氏)との指摘もある。

しかし、労働人口の減少はイノベーションを担う者の減少も意味する。賃上げは世界的に起きており、国際競争の中で人材を確保するのは容易ではない。実質的な賃上げを持続するには生産性を向上させるしかないが、現時点ではまだ見通すのは難しい。

(浜田寛子 編集:伊賀大記)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L

ワールド

中国石炭価格は底入れ、今年は昨年高値更新へ=業界団

ワールド

カナダLNGエナジー、ベネズエラで炭化水素開発契約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中