最新記事

経済制裁

ビットコインによるロシアの制裁逃れを防げ 日本も対策、課題は国際連携

2022年5月21日(土)10時07分

ビットポイントジャパンの小田玄紀会長(JVCEA副会長)は、主要な交換業者では、顧客の「KYC」(本人確認)から「KYT」(取引確認)に監視手法が高度化していると説明する。顧客の収入からは考えにくい高額な振り込みや複数のアドレスからの送金など疑わしい取引がないか、交換業者は監視しており、疑わしい送金については顧客に事情を確認してからでないと送金できない仕組みにしているという。

小田会長は「登録業者は対応をきちんとやっており、マネロンや制裁逃れには使われないのではないか」と自信を示す。

封じきれない抜け道

もっとも、暗号資産経由の制裁逃れを封じていく上で課題も残る。マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは、日本の暗号資産業者がしっかり本人確認をしても「送金先の取引所の本人確認がどの程度厳格かは相手国の規制次第だ」と指摘。「BIS(国際決済銀行)のような暗号資産取引に関する国際的な機関がルール作りをするのが望ましいのではないか」と話す。

例えば、地中海の小国・マルタは暗号資産に関する法制度を整備して交換業者を誘致しているが、マネロン対策に関する規制を議論する国際組織の金融活動作業部会(FATF)は、マルタを「戦略的な欠陥を有する国」に分類している。

暗号資産取引を巡る規制・監督の限界もある。事情に詳しい河合健弁護士は、改正外為法は登録業者を通じた抜け道封じには有効だが、「個人間でやり取りするものについてはどうしようもないという世界は継続してしまう」と話す。

グローバルに事業展開する大手暗号資産取引所のバイナンスは4月、EUの対ロシア制裁を受け、1万ユーロを超える暗号資産を保有するロシア国民へのサービスを制限していると明らかにした。

バイナンスは日本で事業展開するための登録を取得せず、金融庁が複数回にわたって無登録の「警告」を発した業者だが、バイナンスのチャンポン・ジャオ最高経営責任者(CEO)に近い関係者によると、ロシアの戦争に加担したくないとのCEOの意向が規制順守の姿勢につながったという。

金融法務を手掛ける鈴木由里弁護士は「暗号資産経由の制裁逃れをいかに封じるかは日本だけの問題ではない。どの国にも登録せずに国境なくビジネス展開している事業者や、規制の緩い国だけで登録してグローバル展開している事業者をどう捕捉していくのかは難しい問題だ」と話す。

(和田崇彦 編集 橋本浩)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中