最新記事

株の基礎知識

貿易赤字と経常赤字で「悪い円安」へ 日本から空前の規模の「家計の国外逃亡」が起こる可能性も

2022年5月11日(水)16時50分
山下耕太郎 ※かぶまどより転載

fatido-iStock.

<資源高と円安により、日本は2年ぶりの貿易赤字となった。さらに、経常収支が42年ぶりに赤字になる可能性まで出てきた>

2021年度は2年ぶりの貿易赤字に

貿易収支とは、財貨(物)の輸入と輸出の収支のことです。輸出が輸入を上回ると貿易黒字となり、輸入が輸出を上回ると貿易赤字となります。貿易黒字が増えればGDPを押し上げ、反対に貿易赤字が増えればGDPを押し下げることになります。

また一般に、貿易黒字が増えるということは、相手国から受け取る外貨の量が増えるということなので、その分、日本円に交換するために外貨を売って円を買い、円高圧力を高めることになります。

貿易収支は、財務省が毎月発表している「財務省貿易統計」に掲載されています。貿易収支は速報性が高く、実態を反映しやすいので、GDP速報値など他の統計の基礎データとしても利用され、マーケット関係者やエコノミストから注目されているのです。

財務省が4月20日に発表した2021年度の貿易統計速報によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は、5兆3748億円の赤字となりました。貿易収支の赤字は2年ぶり。赤字幅は過去4番目で、原発稼働の低下で火力発電用燃料の輸入が膨らんだ2014年度以来、7年ぶりの大きさでした。

また、同時に発表した2022年3月の貿易収支は4,123億円の赤字となりました。8か月連続の赤字です。

輸出は、半導体などの供給不足の影響が和らぎ、前年同月比14.7%増の8兆4,609億円。輸入は、原油高騰の影響を受け、前年同期比31.2%増の8兆8,733億円となり、輸出、輸入ともに過去最高水準となりました。

外国為替市場では、円相場は1ドル=130円台にまで下落し、約20年ぶりの円安水準に達しています。国内の輸出企業は円安の恩恵を受けますが、資源価格の上昇により輸入額も増加し、貿易赤字になりやすくなっているのです。

(参考記事)進む円安で株価はどうなるのか? 為替と株価の関係と、今後の見通し

経常収支も42年ぶりの赤字になる可能性も

円安と資源高によって、2022年度は42年ぶりに経常収支が赤字になる可能性も出てきました。経常収支は外国との財貨・サービスの取引や投資収益の交換など、経済取引によって生じる一定期間の収支を示す経済指標です。

経常収支は国際収支統計の一項目であり、国際通貨基金(IMF)が定めた「国際収支マニュアル」に基づいて作成されるので、国際比較が可能です。なお、貿易収支も経済収支の内訳のひとつです。

経常収支にはそのほかに、旅行や特許権使用料などの「サービス収支」、配当や利子のやりとりを示す「第一次所得収支」、無償の援助などを含む「第二次所得収支」などがあります。日本では、財務省が「国際収支統計」の中で毎月発表しています

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、ミシュスチン氏を首相に再任命 下院

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中