最新記事

経済制裁

継続か撤退か......ロシア進出の日本企業が苦慮 欧米勢撤退で焦り募る

2022年3月7日(月)17時57分
サハリン近郊のプラントに停泊中の日本のLNGタンカー

日本企業がロシア事業の扱いに苦慮している。写真は、サハリン近郊のプラントに停泊中の日本のLNGタンカー。日本はLNGの約1割をロシアから輸入している。2009年2月撮影(2022年 ロイター/Sergei Karpukhin)

日本企業がロシア事業の扱いに苦慮している。物流の混乱などを理由に生産や輸出の停止に動いているものの、ESG(環境、社会、企業統治)投資の広がりで早くから社会問題への対応を迫られていた欧米企業は、ウクライナ侵攻に非難の声を上げて事業撤退を相次ぎ決定。日本勢は現地の雇用などへの影響も考慮せざるを得ないとする一方、判断の遅れも認識しており、幹部らからはレピュテーションリスク(社会的評判やブランドイメージへの悪影響)を危惧(きぐ)する声が聞かれる。

連日会議、リスクを議論

ロシアに工場を持つ日本のある自動車メーカーは、連日会議を開いて対応を協議している。同社幹部によると、制裁対象の金融機関はどこか、決済や供給網(サプライチェーン)に影響はないか確認しているという。

米フォードやスウェーデンの商用車大手ボルボは早くに事業停止を決めており、「人権などの観点からのレピュテーションリスクも議論している。当然意識している」と、この幹部は言う。「それでもすぐに撤退を決めないのは、ウクライナ危機のこの状況がどのくらい続くのかまだ見通せないからだ」と話す。

ロシアに進出する日本企業のうち、自動車メーカーはトヨタ自動車と日産自動車が同国向け完成車輸出を停止。トヨタは現地生産も止めた。日産、マツダ、三菱自動車工業も在庫部品がなくなり次第、現地生産が止まる見通し。現地に工場がないホンダは四輪車、二輪車とも輸出を取りやめた。

理由はいずれも物流や決済の混乱。建機大手のコマツと日立建機も同様だ。

前出とは別の自動車メーカー幹部は、撤退すれば現地の雇用に影響が出るとし「なぜ撤退しないのかをしっかり説明しないといけない」と話す。「生産・販売を黙ってこのまま続けるだけでは、レピュテーションリスクになると感じている」と打ち明ける。

国益と人権のはざま

とりわけ対応に注目が集まっているのが、日ロ経済協力の象徴であるエネルギー開発事業に参画する商社だ。三井物産と三菱商事は「サハリン2」に、伊藤忠商事グループと丸紅は「サハリン1」に出資している。

2からは英シェルが、1からは米エクソンモービルが撤退を決めた。ある大手商社の関係者は、液化天然ガス(LNG)など長期契約を結んでいる販売先に影響が出ないよう状況を見極める必要があると説明する。「エネルギー問題は国益や公益にもかかわるため、政府やその他の関係者とも緊密に議論している」とした上で、同時に、企業価値や株主への説明も考えなければならないため「難しい立場だ」とも語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中