最新記事

経済制裁

継続か撤退か......ロシア進出の日本企業が苦慮 欧米勢撤退で焦り募る

2022年3月7日(月)17時57分

日本はLNGの約1割をロシアから輸入している。官民連合体のサハリン石油ガス開発(SODECO)への出資を通じてサハリン1に関わる日本政府は明確な方針を示しておらず、岸田文雄首相は3日夜の会見で、「エネルギーの安定供給や安全保障の観点から、状況をしっかり判断した上で決定すべきことだ」と述べた。

首相に近い政府関係者は、ウクライナ危機が長期化した場合、「日本がロシアに資金供給を続けていること自体が批判されるリスクがある」と懸念する。エネルギー業界に詳しいある与党関係者は「現在はロシアからのガス調達を継続している欧州も調達を停止することになれば、日本も対応が必要だ」と語る。

三井物産は4日、「安定供給の観点も踏まえ、日本政府や事業パートナー含むステークホルダーとも今後の方針に関して協議を続け適切に対応する」との声明を出した。三菱商事はロイターの取材に「シェルの発表内容の詳細を分析の上、日本政府およびパートナーとの検討を進める」としている。伊藤忠と丸紅はサハリン1について、SODECOとして対応を検討しているとしコメントを控えた。

制裁対象外でも事業停止

日本企業の多くは、欧米企業ほど株主や取引先、当局、さらには従業員から批判を受けるような事態にはまだ直面していないと、ESG投資の専門家は指摘する。投資判断を助言するコンサルティング会社、モロー・ソダリでESGを担当するJana Jevcakova氏は「世界的な機関投資家を株主に持つ企業はじきに、あるいはすでに圧力を感じているが、日本にはまだそうした株主のいる企業が多くない」と話す。

企業自身も、率先して動けないことにもどかしさを感じている。「欧米が先に動き、それに従って、または、欧米に言われて初めて彼らについていく。はっきり軸足を持たず、じっくり状況を見極めてから、後ろ指を差されないようについていく」と、日本のあるメーカーの幹部は言う。「そういう意思決定をする企業が多いのではないか」と話す。

デンマークの年金基金アカデミカ―ペンションのアンデルス・シェルデ最高投資責任者(CIO)は、「良き企業市民であるには、政府の制裁方針を順守するだけでなく、制裁対象外の事業を停止することも必要となる」と指摘する。

「財務的な観点からは短期的に損失を意味するかもしれないが、ロシアが長期的に非難される可能性があることを考えると、長い目で見たコストはあまり変わらないだろう」。

(白木真紀、大林優香、竹本能文、David Dolan 編集:久保信博、William Mallard、田中志保)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・ウクライナに「タンクマン」現る 生身でロシア軍の車列に立ち向かう
・ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と「新・核戦争」計画の中身


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ワールド

イスラエル、ガザ人道財団へ3000万ドル拠出で合意

ワールド

パレスチナ国家承認は「2国家解決」協議の最終段階=

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中