最新記事

エネルギー

増加するEVに電力網は耐えきれるか? スマート充電がパンク回避の切り札に

2022年2月21日(月)14時22分

ノルウェーは政府肝いりでEV移行の最先端に立っており、首都オスロでは自動車販売の約4分の3をEVが占めている。地元の変電所の一部は1950年代に建設され、もし、スマート充電が無ければ、オスロは高い経費を投じて電力網を大規模刷新する必要が生じる。

「われわれは電力網に過剰な投資をしたくないため、この状況を切り抜けるにはスマート充電という解決策が必要だ」と、オスロの充電インフラ構築を司るSture Portvik氏は話した。

風力発電も効率化

英コネクテッド・カーブは2030年までに19万カ所に公共充電設備を配置する目標を立てている。それらを通じて消費者の充電パターンを予想して電力事業者に知らせ、再生可能エネルギーが余っている時には低い料金を提示する、といったことが可能になるとペートマンジョーンズCEOは説明する。

現在は風力発電が過剰になると、事業者は風力タービンを止めるよう言われる」が、「スマート充電があれば、その電力をもっと活用できるようになる」という。

英国の電力会社の中には既に、家庭でのスマート充電用にオフピーク料金を提供しているところもあるが、活用しているEV所有者はほとんどいない。

安いEV充電料金を探すサービスを提供している英ライトチャージのチャーリー・クックCEOは「家庭でのスマート充電環境は既に整っている」が、「実態として、そうした(お得な)料金設定の認知度は驚くほど低い」と話した。

ライトチャージは、スマート充電によって英国のEVドライバーは2030年までに100億ポンド(135億ドル)節約できるようになると試算している。

双方向充電が鍵

双方向充電が、今後の鍵を握るかもしれない。

EYのグローバル・エネルギー資源責任者、サージ・コール氏は「恐ろしく高くつく」電力網の刷新よりは、スマート充電と双方向充電の方が賢明な選択肢だと指摘する。

英OFGEMは、スマート・双方向充電によるピーク時の電力使用量削減効果が2050年までに、イングランドで建設されている「ヒンクリーポイントC原子力発電所」の発電量の10倍に達すると予想している。

米国では、スクールバスを使ってEVから電力網に電力を供給する試験プロジェクトが10カ所以上で進行中だ。オーストラリアにも双方向充電設備を開発中の企業がある。

双方向充電の導入を見据える自動車メーカーも増えてきた。米フォード・モーターは太陽光発電企業サンランと提携し、ピックアップトラック「F─150ライトニング」を使って家庭に電力を供給している。

ただ、双方向充電の将来性を信じて追加投資を行ったノルウェーのオスロは、対応車種を導入する自動車メーカーがまだ少ないことに失望している。

Portvik氏は「双方向充電の壁になっているのは、自動車メーカーだ。大手メーカーが取り組みを強化する必要がある」と語った。

(Nick Carey記者 Anthony Deutsch記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・クジラは森林並みに大量の炭素を「除去」していた──米調査
・気候変動による世界初の飢饉が発生か 4年間降雨なく、昆虫で飢えをしのぎ...マダガスカル
・地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽光の反射が低下


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、南ア・印・ブラジル首脳と相次ぎ電話協議

ワールド

トランプ氏「紛争止めるため、追及はせず」、ゼレンス

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長

ワールド

ロシア、ウクライナに大規模攻撃 ゼレンスキー氏「示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中