最新記事

エネルギー

増加するEVに電力網は耐えきれるか? スマート充電がパンク回避の切り札に

2022年2月21日(月)14時22分
コネクテッド・カーブのクリス・ペートマンジョーンズCEO

電気自動車(EV)の普及に伴って、各国の電力事業者や充電設備開発企業、政府を悩ませる大きな問題が存在する。写真は1月、ロンドンで、自社アプリを使ってEVを充電するコネクテッド・カーブのクリス・ペートマンジョーンズ最高経営責任者(2022年 ロイター/Nick Carey)

電気自動車(EV)の普及に伴って、各国の電力事業者や充電設備開発企業、政府を悩ませる大きな問題が存在する。数千万台のEVが走っても電力網がパンクせず、送配電設備の刷新に巨額を投じなくて済むようにするにはどうするべきか──という課題だ。

その答えを握るのが、スマート充電システムと言える。

電力料金の高いピーク時にEVのコンセントをつないでも、実際には料金の安いオフピーク時まで充電しないようにできるソフトウエアを使用。これにより電力網への負荷は軽減され、再生可能エネルギーの利用は効率化し、EVの所有者は出費を節約できるようになる。

こうしたソフトが無い状態で何百万人のEVドライバーが仕事終わりに充電すれば、送電網は過負荷になって停電を起こしかねない。会計事務所EYの推計では、欧州のEV台数は2030年までに6500万台、2035年までに1億3000万台に達する見通しだ。

英国のEV充電施設企業、コネクテッド・カーブのクリス・ペートマンジョーンズ最高経営責任者(CEO)は「スマート充電が無ければEVへの移行はほぼ不可能だ」と語り、ロンドンで行っている公共充電設備の試験プロジェクトをロイターに見せてくれた。

同社のスマートフォン・アプリを使って充電スピードと充電時間をセットすれば、特定の「エコ」料金で充電することができる。

「ずっと安いし簡単だ」と語るのは、パブを経営するゲド・オサリバンさん(65)。コネクテッド・カーブのアプリを使うことで、所有するプラグイン型ハイブリッド車の充電料金を3割減らすことができたという。

公共の充電設備はまだ非常に少なく、こうした設備にスマート充電を導入することが大きな課題になる。

EYとユーレレクトリックの報告書によると、欧州の公共充電設備は現在、37万4000カ所にとどまっている。2035年までに900万カ所に増やす必要があるという。

近い将来に「双方向充電」、つまり「車から電力網へ」の逆充電も重要になるだろう。電力使用量がピークを迎える時間帯になると、数百万人のEV所有者がEV電池に蓄えられた電力を売って電力網に送り返すのだ。

英エネルギー規制当局OFGEMによると、多くの家庭でスマート充電が使えるようになっている英国でさえ、多くのEV所有者はその存在に気付いていない。米国でスマート充電を提供している公益企業は、ひと握りに過ぎない。

また、現在のところ、双方向充電に対応したEVは仏ルノーの車種と、韓国の現代自動車の次期モデルなど、ごく限られた種類しかない。ただ、今後は他のメーカーも追随する見通しだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子

ワールド

ソフトバンクG、格上げしたムーディーズに「公表の即

ワールド

サウジ、JPモルガン債券指数に採用 50億ドル流入

ワールド

サウジとパキスタン、相互防衛協定を締結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中