最新記事

米社会

元犯罪者の雇用を促進せよ、「訳あり」人材が企業と経済を救う

Second Chances

2021年10月29日(金)07時06分
ジェフリー・コーゼニック(フィフス・サード・バンクのチーフ投資ストラテジスト)

アメリカでは1900万人が重罪で有罪判決を受け、さらに数千万人に軽罪の犯罪歴があって、それが高収入の仕事に就く大きな壁になっている。服役を終えて地域社会に戻る人は毎年60万人を超える。

既にアメリカの就業者数は約1億5000万人、好景気の年にはさらに200万~300万人が加わるのだから、これは大変な数だ。先見の明のあるビジネスリーダーたちにとっては大勢の有望な人材が手付かずで埋もれているわけだ。

出所1年目の失業率は推定50%前後。もちろん、求職者は多くてもいい労働者になるかどうかは分からない。

セカンドチャンス雇用の現実味については、大規模な調査報告も、私が知り得た非公開のリサーチ結果も、こうした雇用の先駆者である企業トップの証言も、全て一致している。いい人材を採用し適切に支援すれば、元犯罪者は特に熱心で忠実な労働者になる。自分の仕事に誇りを持ち1つの会社に長くとどまることは、生産性のある──かつ利益を生む──従業員の要素だ。

服役していた人々が再出発のために克服しなければならない壁は大きい。それを考えれば、多くの元犯罪者が実は「気骨のある人」だと理解できる。社会的烙印にとどまらず、連邦法と州法には約4万4000の「副次的影響」があり、それらが地位向上に必要な免許や信用や住まいなどを入手しにくくしかねない。

社会的なメリットも大きい

セカンドチャンス雇用はもう単なる希望的観測ではない。経営陣は長期的な人材不足を認識するようになり、アメリカの刑事司法制度の欠陥についての理解も進んできた。

フィフス・サード・バンクは数年前から全米各地で啓発のためのセミナーを主催し、顧客との直接的なコミュニケーションを図ってきた。ビジネス界が結束し、人事担当者向けの研修、試験的プログラム、企業間のデータ共有といった、支援システムづくりも進んでいる。

多くの中小企業も一役買えるが、それには1時間のセミナーを受講するだけでは不十分。私は新著『手付かずの人材──セカンドチャンス雇用でビジネスもコミュニティーもうまくいく』の中で事業へのメリットと優良事例を紹介している。

セカンドチャンス雇用はあくまでもビジネスであって慈善事業ではないが、社会にもメリットはある。罪を犯して刑に服した人々の更生には雇用が不可欠。こうした雇用機会を与えられず再犯を招けば、被害者や司法制度が被る経済的損失は数百億ドル規模に上る。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 8
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中