最新記事

仮想通貨

デジタル人民元が「ビットコインを潰す」は誤解...むしろ仮想通貨を救う可能性も

2021年5月26日(水)19時50分
千野剛司(クラーケン・ジャパン代表)

仮に中央銀行や政府が全てのユーザーの取引履歴を追跡してブロックチェーンによって書き換え不可能になってしまったら、データに関するプライバシーと消費者関連データの保護が焦点になるでしょう。もし十分な数の人々がプライバシーや匿名性を重んじるのであれば、CBDCの発行は失敗に終わるかもしれません。

仮想通貨のプライバシー性の度合いは様々です。ビットコインは英数字の羅列であるアドレスがブロックチェーン上に公開されます。ただ、アドレス情報からだけでは個人が特定できないという点でビットコインのプライバシー性はCBDCより高いと考えられます。

また、CBDCを発行する中央銀行自体に信頼がなければ、CBDCは成功しないでしょう。2014年にエクアドルが発行したCBDCが良い例です。本来なら銀行口座を持っていない人々に金融サービスを提供することが目的の一つであるはずですが、得てしてそうした人々が住む国の中央銀行には信頼がないものです。

対照的にビットコインなど仮想通貨は、原則的には、国の垣根を越えて銀行口座を持っていない人にも金融サービスを提供することができます。

さらに、政府の圧政から逃れるために代替的な送金手段や価値の保存手段として仮想通貨に頼る人々もいます。政情不安の国ではしばしば資本統制を敷くこともありますが、政府や中央銀行が主導するCBDCは資本統制の回避ではなく強化に使われるのではないでしょうか。

そして、激しいインフレーションを経験する国にとって、法定通貨のデジタル版であるCBDCは救世主にはなりません。自国の法定通貨の価値が減少する中、「デジタルゴールド」として供給量が限定的なビットコインなどの仮想通貨の需要が高まることが考えられます。

CBDCとステーブルコイン

CBDCが普及すれば、ステーブルコインが必要なくなると主張する人も少なくありません。ステーブルコインは、法定通貨などを裏付けとすることで価格の変動を抑えることを目的としています。例えば、USDTやUSDCなど米ドルと連動するステーブルコインは発行量の裏付けとなる十分な額の米ドルを銀行口座に持つことで、信頼を獲得しようとしています。

ステーブルコインもCBDCと同様に法定通貨のデジタル版と言えます。このため、両者が直接の競合になるという見方をする人も少なくありません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUに8月から関税30%、トランプ氏表明 欧州委「

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 6
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 7
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 7
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中