最新記事

環境

展望2021:加速する脱炭素化が「隠れた地政学リスク」に

2021年1月2日(土)11時44分

欧州エネルギー取引所グループの高井裕之・上席アドバイザーはロイターとのインタビューで、世界的に加速する脱炭素の潮流について、「隠れた地政学リスク」になるとの見方を示した。写真は仏パリ近郊の油田で2018年4月撮影(2021年 ロイター/Christian Hartmann)

欧州エネルギー取引所グループの高井裕之・上席アドバイザーはロイターとのインタビューで、世界的に加速する脱炭素の潮流について、「隠れた地政学リスク」になるとの見方を示した。原油価格の低迷が続いて産油国の地位と財力が低下するほか、中国がこの新たなエネルギー分野で覇権を狙う可能性があるとした。

原油価格は足元1バレル40ドル前後で、100ドル前後で推移していた2010─2014年から大きく下落している。米国でのシェールガス・オイル増産で低下したが、今は新型コロナウイルスの感染拡大で生産活動や人の移動が抑制されていることが響いている。高井氏も、1日あたり1億バレルとされる世界の原油需要のうち、「600─800万バレルを占めていた航空向け需要が今なくなっているが、早期に回復すると考えいにくい」と語った。

一方で高井氏は、急速に進む脱炭素の流れも市況に影響していると指摘。「(原油)需要の6割が自動車など運輸関係。これが先進国では徐々に電気自動車に置き換わっていくとみられる」と述べた。

原油とは逆に価格が上昇しているのが、リチウムなどの鉱物。脱炭素社会の到来を見越し、電動化や再生可能エネルギー技術に必要な資源の需要が高まっている。高井氏は「電線や電気自動車の部品に使われる銅や、ニッケル、コバルト、リチウムなどの需要が10年、20年単位で伸びる」と語った。

住友商事のワシントン事務所長も務めた高井氏は、産油国が不安定化しかねないこうした流れが国際社会の勢力図に影響を与えると予想。「サウジアラビアなどは政府予算の前提が1バレル80ドルとされており、原油価格の低迷が継続すると産油国の財政に影響する」と述べた。イラクやイラン、ナイジェリア、リビア、ベネズエラやブラジルなど、産油国は経済的に脆弱(ぜいじゃく)な国が多いため「原油安の継続で問題が起こりかねない」と語った。

その一方で、中国は鉱物資源の需要拡大で追い風を受けている。高井氏は「ニッケルやコバルト、リチウムなどのバリューチェーンを抑えているほか、風力発電のブレードや太陽光発電で過半の世界シェアを押さえている」と述べた。さらに、今後は電気自動車の普及でも技術的な覇権を取ろうとしているとの見方を示した。

*インタビューは12月23日に実施しました。

(竹本能文 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・オーストラリアの島を買って住民の立ち入りを禁じた中国企業に怨嗟の声・反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路


ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中