最新記事

環境問題

「脱炭素社会」実現に日本政府動き出す 再生エネルギーはコストと産業育成で課題も

2020年10月26日(月)17時49分

日本がようやく「脱炭素」に重い腰を上げた。写真は風力発電のタービン。都内で2011年7月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日本がようやく「脱炭素」に重い腰を上げた。産業としても期待される洋上風力などの再生可能エネルギーを主力電源と位置付け、育成に本腰を入れる。

ただ、電力の「安定供給」のためには、蓄電池など島国日本にとって必須な技術の確立を急ぐ必要があるほか、原発再稼働の議論は避けて通れない現実もある。他国に遅れをとっている現状、この目標を掲げなければ、国際社会での活動がままならなくなる懸念に背中を押された格好だ。

日本政府はこれまで「2050年までに80%削減」や「50年にできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるよう努力」としていた。ある政府関係者は、50年の実質ゼロ目標について「困難だが、チャレンジしなければならない課題」とし、今後、政府や企業、個人全てで多大な努力が必要になると指摘した。

洋上風力、産業育成と国民負担のジレンマ

今後10年間で原発10基分に当たる10ギガワットの発電能力を確保する方向が打ち出され、ようやく動き出そうとしている「洋上風力発電」は、遅々として進まない日本の再生可能エネルギー拡大の鍵になるとの期待が高まっている。1基当たりの投資額が大きい上、関連産業の裾野も広く、現地生産に向いていることから「産業化」への思惑も強い。

一方で、第1回の入札に関する買取価格が予想を大きく下回る水準に設定されることとなり、業界からはすでに、採算性に疑問符が付くとの指摘が出ている。再エネの柱と期待する洋上風力で早くも、産業育成と国民負担減の板挟みに陥っている。

9月、経産省の調達価格等算定委員会において「固定価格買取制度(FIT)」によって洋上風力発電プロジェクトの電力を買い取る価格の上限額「29円/kWh」が示され、委員会で賛同を得た。太陽光発電などの買い取りで重くなってしまった国民負担を軽減するため、14―19年度の着床式洋上風力発電の買取上限の36円から約2割も下がった価格となり、ジャパン・リニューアル・エネジーの安茂会長は「業界にとっては衝撃的な低い値段」と話す。

この価格については今後パブリックコメントを経て正式に決めることになるが、委員会では、他国との価格差を縮める必要があることからさらに下げる努力を求める声が相次いだ。

しかし、安価に決まれば、中国や韓国から安い機材を輸入しなければ採算が合わなくなる。日本風力発電協会専務理事の中村成人氏は「コスト低減と産業育成のバランスが重要」と指摘する。

再エネのトップランナーだった太陽光発電は、導入を促進するためにFITの価格を高く設定。委員の1人である山地憲治氏(公益財団法人地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長)は、電力会社は買い取り費用を電気料金に上乗せしてきたため太陽光バブルが生まれると同時に国民負担も増大したと指摘、「太陽光と同じ轍を踏まないように十分注意したい」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国税務当局、顧客情報流出のクーパンに特別調査=聯

ビジネス

フジ・メディア、村上氏側に株買い増し目的など情報提

ワールド

中国、米国による船舶拿捕は「重大な国際法違反」

ビジネス

中国万科、債権者が社債の返済猶予延長を承認=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中