最新記事

環境問題

「脱炭素社会」実現に日本政府動き出す 再生エネルギーはコストと産業育成で課題も

2020年10月26日(月)17時49分

原発再稼働推進

再生可能エネルギーを推進する欧州連合(EU)では、天候による発電出力の変動対策として国際送電網を活用して電力の輸入・輸出を積極的に行っている。一方、こうした送電網がない日本において政府は、電力の安定供給のためにも「原発再稼働」は不可欠と位置付けている。

菅義偉首相は26日の所信表明演説の中で「安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立する」と明言。梶山弘志経済産業相も同日の会見で、原発を含めてすべての電源を活用していくとし「10年間は原発再稼働の努力期間」と述べた。安全対策の不備や地元の理解などハードルが高い状況も続いているが、ゼロエミッション実現に向けては、避けて通れない議論となってくる。

こうした中、自然エネルギー財団は「脱炭素化を原子力発電の継続の根拠にしようとする議論があるが、高コスト化し、安全性の確保や最終廃棄物処理に課題を抱えた原子力発電に依存することはできない」とくぎを刺す。

先んじる企業

政府に先んじて複数の企業がすでに、国際社会やビジネス上不可欠として独自のゼロエミッションを打ち出している。これまで鉄鋼連盟で共通の目標を掲げていたJFEホールディングス<5411.T>は、自社でのCO2排出削減目標を初めて設定した。鉄鋼事業において30年度のCO2排出量を13年度比で20%以上削減することを目指すほか、50年以降のできるだけ早い時期に、JFEグループのカーボンニュートラルを実現する。

同社の手塚宏之専門主監(地球環境)は「投資家からの問い合わせが多いことなどを受け必要だと踏み切った」と話す。低品位の石炭・鉄鉱石から製造される原料を使用する技術など、これから開発が必要な技術も整理し、ロードマップを明確にした。

東京電力ホールディングス<9501.T>と中部電力<9502.T>が折半出資するJERA(東京都中央区)も、50年に事業活動におけるCO2排出量を実質ゼロにする目標を発表した。火力発電所の燃料を水素などに転換するほか、非効率な石炭火力を廃止する。

JERAの奥田久栄常務は「エネルギー事業者であり続けるための必要条件であり、世界で活動するための入場券のようなもの」と、計画発表の意味を説明する。今後、CO2の排出量が少ない電気を求めるニーズも確実に高まってくるとみられ、国がCO2排出の少ない電気を市場でしっかり評価する仕組みを導入すれば「ビジネスベースで十分競争力のある電気になる」と期待を示している。

梶山経産相は「2050年はまだ想像できない」と話し、今後の技術開発の加速に期待を寄せる。国としては、税制などあらゆる支援を行っていく方針だ。

(清水律子 編集:田中志保)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国共産党化する日本政治
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中