最新記事

新型コロナウイルス

コロナ禍でダブつく航空機 中古機より中古部品に人気で解体・部品業者に商機

2020年9月23日(水)19時26分

新型コロナウイルスの世界的大流行により航空機の運航休止が広がる中、航空機の解体や中古部品の売買を手掛ける事業が持ち直しの兆しを見せている。航空各社が航空機の引退を前倒ししているためだ。

企業幹部やアナリストの話では、航空機の解体や中古部品の保管、売買を行う企業は、運航休止中の航空機に商機を見い出している。その一方、年間30億ドル規模と推計される中古部品市場では、保守費用の軽減を図る航空会社からの需要にもかかわらず、供給の急増によって価格が下がる恐れがある。

新型コロナの大流行により航空産業は不振が続いているが、米商用航空機会社・GAテレシスの責任者はこのほど、航空会社5社から航空機解体のオファーを示すよう求められた。

また、カナダの同業エアロサイクルの最高経営責任者(CEO)によると、同社はこれまで航空会社の委託によって航空機をリサイクルしてきたが、現在は解体して部品を転売する目的で、運航休止中の機体を初めて買い取ろうとしている。

中古部品市場の関係者らは今、世界各地で運航休止中の航空機の行方を注視している。コンサルタント会社のオリバー・ワイマンは、航空会社がコスト削減を図る中、中古部品の需要が急増すると予想している。

中古部品は新品と競合し、保守、修理、総点検など「アフターマーケット」支出の先送りにつながる可能性がある。コンサルタント会社・NAVEOは、アフターマーケットの市場規模を500億ドルと推計している。

ある企業幹部は、あまりにも多くの航空機が解体されれば価格が落ち込むと予想し、部品購入を控えた。この幹部は「価格は急速に下がるだろう」と語った。

データ会社のシリウムによると、部品転売や廃棄のために解体される航空機は、2016年以降は年間400─500機程度で推移してきたが、2023年までに約2倍の年間1000機に増える可能性がある。

NAVEOの推計では、世界の旅客機と貨物機のうち、現在運航しているのは60%。

NAVEOは、引退するか、運航を休止したまま再開しない航空機が2019年の680機から2020年には2000機に増えると予想。ただ、同社のマネジングディレクター、リチャード・ブラウン氏はこれらの航空機について、一部の航空会社は市場環境が改善する場合に備えて様子見姿勢をとるため、全てがすぐに解体されるわけではないと話した。

実際、英国を拠点とするエアー・サルベージ・インターナショナルでは新型コロナの感染拡大以降、部品の買い手がいないため保管したままの航空機が増えている。同社は通常、年間40─50機の航空機を解体している。創設者のマーク・グレゴリー氏は、大半の航空機は最終的に解体されると予想している。

感染拡大前、同社に届けられる航空機は買い手が確定していた。エンジンなど売れ筋の部品は需要が旺盛だったからだ。

航空各社は、引退した航空機の利用可能な中古部品を買い求め、重大な保守点検が迫った比較的新しい航空機に搭載している。こうすればコストの高い修理を回避しながら運航を継続できる。

東京センチュリー<8439.T>が筆頭株主であるGAテレシスのアブドル・モーベリーCEOによると、航空各社は運航休止中の航空機の予備部品を使うことで、GAテレシスの保守点検サービスを回避している。

=====

航空機の早期引退

新型コロナの大流行が、古い航空機の早期引退を後押ししている。ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)もボーイング747型機を早期引退させた。2020年の航空旅客数は55%減少する見通し。BAの747型機の一部はエアー・サルベージに引き渡される。

双通路(ワイドボディ)型航空機の国際運航に伴い、貨物輸送に使われる特定の航空機を除き、同型機の部品需要も低下している。

エアー・サルベージのグレゴリー氏は、航空機リース会社からA380型機の数機の解体について打診されたと話した。だが、NAVEOによるとA380型機のうち運航しているのはわずか5%にとどまるため、部品需要は低調だ。

航空各社は国内線を飛ぶ単通路(ナローボディ)型機の部品を求めている。単通路型機の約64%は運航しているためだ。

プライベートエクイティ(PE)会社、ベアード・キャピタルの英国パートナー、ジェームズ・ベンフィールド氏は、単通路型機であるB737とA320の解体サービスへの需要が増えると見込む。同社は8月、解体業者を買収した。

保守業者とエンジン製造業者も中古部品を取引しているが、部品が供給過剰となり販売を圧迫する恐れもある。

ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOは7月の電話会見で、同社は中古部品の業界動向に「参加する態勢を整えている」と語った。GEアビエーションはエンジンを製造しているが、中古部品も使っている。

安値拾い

航空機を安く買いたたこうとする業者もあるが、航空会社はそうした圧力をはねつけ、損失が出る価格で売ることは避けてきた。

GAテレシスのモーベリー氏は「安値の提示が多い」が、「そうした提案はまだ、受け入れられていない」と話した。

フロリダ州を拠点とするインターナショナル・エアクラフト・アソシエイツ(IAA)などの企業は、航空会社が年末までに損切りに動く可能性を見据えている。IAAのミッチ・ワインバーグ社長は「われわれのような人間は、その時こそ準備万端でいたい」と語った。

(Allison Lampert記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200929issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月29日号(9月23日発売)は「コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50」特集。利益も上げる世界と日本の「良き企業」50社。PLUS 進撃のBTS

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中