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コロナショック、日本経済の構造変化させた可能性無視できず=日銀調査統計局長

2020年7月17日(金)10時54分

日銀の神山一成調査統計局長はロイターのインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で「極めて大きなショックが加わるもとで、経済構造が変化している可能性が無視できない」と述べた。写真は2017年1月、都内で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日銀の神山一成調査統計局長は16日、ロイターのインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で「極めて大きなショックが加わるもとで、経済構造が変化している可能性が無視できない」と述べた。

経済構造の変化の有無を見極めるために「経済を単純化しすぎずに、これまでより少し複雑にみていかなければいけない」と指摘。政府・日銀による伝統的な経済指標のみならず、速報性の高い非伝統的データも含めて分析していくことが重要だと述べた。

危機時は非伝統的データの速報性が強みに

神山氏は2019年8月に調査統計局長に就任。就任後まもなくプロジェクトチームを立ち上げ、高頻度データをよりシステマティックに情勢判断に活用する仕組みを検討してきた。神山局長は「感染症だけではなく自然災害もあり、高頻度データに関するボードメンバーの関心も非常に高い」と話す。

「平時では経済見通しに基づくフォワードルッキングな政策運営が可能になるが、危機時で日々急速に経済情勢が変化するとうまくいかなくなる。経済の現状や見通しの不確実性も高まる」と指摘。高頻度データを含め、非伝統的データが持つ速報性が大きな強みを発揮するのは危機時だと述べた。

その上で神山局長は、伝統的な経済統計、非伝統的データ、日銀による企業ヒアリングなどを効果的に組み合わせて経済の実勢を見極めていくことが重要だと話した。「日本の場合、公的統計の質は高いので対外説明はこれに基づいて行う。その上で、状況把握を早くしたいと思った時に非伝統データを使っていくが、その際にはわれわれの企業ヒアリングで得ている知見を併せて判断していくことも必要」と述べた。

需給ギャップ・物価の関係不透明に

神山局長は「コロナ禍においては単純に需要が落ち込むだけではなく、供給サイドでも変化が起きている」と指摘。初期の時点では需要・供給ともに落ち、従来の手法で作成した需給ギャップではマクロ的な需給環境を的確に捉えるのは難しいと述べた。「今後経済活動が戻る中でも、需要と供給がどういうバランスで立ち上がるのか、需給ギャップ・物価の関係がどうなるかについても分からないことが多い」とし、さまざまな情報を基に日銀の仮説を検証する必要があると語った。

神山局長はより広範なデータを見る重要性を指摘しているものの、これまで重視してきている消費者物価指数(CPI)は「物価の基調を表しており、それを基に政策を運営するということに現状、問題が生じているとは思わない」と述べた。

ここに来て、海外当局もビッグデータの収集・分析の人員を増やし、情勢判断の高度化を進めている。神山局長は「日銀の取り組みのスピードは海外中銀対比遜色はないと認識している」と述べた。その上で、「高度な分析能力を有するリサーチャーを育成していくためにも、海外当局との情報交換はしっかりと行っていきたい」と語った。

(木原麗花、和田崇彦 編集:青山敦子)

[ロイター]


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