最新記事

感染症対策

国産人工呼吸器、増産で実績見せたい安倍政権に現場は苦慮「パイロットいないのに戦闘機だけ増やすようなもの」

2020年5月21日(木)17時15分

過剰生産の懸念

政府が掲げる確保数には数百人のコロナ患者を含め使用中の約8300台と未使用の約4700台も含まれ、新たに生産するのはまず約2000台。あるメーカー幹部は、未使用品もあるのに「需要があるのか。在庫買い上げで税金の無駄にならないか」と懸念する。

医療機器メーカーの日本光電工業<6849.T>は自動車メーカーの支援のもと月産約30台だった製品を9月までに1000台、アコマ医科工業(東京・文京区)は自社開発製品をソニー<6758.T>が受託生産し、7月から量産を始めて9月に500台を目指す。

厚労省によると、人工呼吸器を使う重症者数は最多でも4月30日の累計328人。政府や自治体の対策、国民の感染防止意識の高まりなどが奏功し、5月に入ってからは減っており、20日時点では210人、死亡者は771人となっている。人工呼吸器について日本呼吸療法医学会は「現状から大幅に患者数が増えなければ、必要数は満たしているのではないか」と答えている。

都内病院勤務の内科医も「感染拡大の第2波が起きる可能性は十分あり、政府として準備しておく必要はある」とした上で、「国民もすでに感染防止意識を持って行動しており、4月に比べて患者急増のリスクは低くなっている。増産計画は少し軌道修正してもいいかもしれない」と話す。

支援メーカーも人工呼吸器本体の開発には慎重だ。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)は4月、「人の命に直結する」として工程改善など裏方に徹すると説明。ソニーも本体の開発までは「想定していない」(広報)。日産自動車は支援内容すらまだ「決まっていない」(同)。あるメーカー幹部は「呼吸器は市場が小さく製造責任リスクも高い」と躊躇する。米国政府は民間企業に物資の増産を命令できる法律を適用してメーカーに人工呼吸器を生産させているが、日本ではあくまで「要請」であり、「強制」できない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

TSMC、熊本県第2工場計画先延ばしへ 米関税対応

ワールド

印当局、米ジェーン・ストリートの市場参加禁止 相場

ワールド

ロシアがウクライナで化学兵器使用を拡大、独情報機関

ビジネス

ドイツ鉱工業受注、5月は前月比-1.4% 反動で予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中