最新記事

世界経済

新型コロナ経済対策で巨大化する世界の債務 将来に危険なツケ

2020年5月18日(月)11時55分

新型コロナウイルスの苦しみを和らげるため大規模な景気刺激策という薬が相次ぎ投与されている。写真は各国紙幣。1月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

新型コロナウイルスの苦しみを和らげるため大規模な景気刺激策という薬が相次ぎ投与されている。しかし、そうした投与に伴って債務の遺産を果てなく抱え込むことは、経済成長の阻害や貧困の悪化を通じて、将来の危機の種をまくことになりかねない。発展途上国ではなおさらだ。

世界の中央銀行や政府は、1930年代以来最悪の景気後退の打撃を緩和するため、債券買い入れや財政支出などで少なくとも計15兆ドル(約1600兆円)の刺激策を打ち出した。

しかし、2008─09年の世界金融危機の余波になお苦しんでいた国々にとって、こうした刺激策は一段の債務拡大につながる。国際金融協会(IIF)によると、07年以降に世界の債務総額は87兆ドル増加したが、このうち70兆ドルが政府債務だった。

IIFによると、今年は世界の経済成長率がマイナス3%、政府借り入れが前年から2倍に増えるとの想定で、債務の対国内総生産(GDP)比は20%上昇して342%に膨らむ。

こうした債務が罰を受けずに済むことはない。最大の痛みを被るのは高債務国だろう。イタリアのような比較的豊かな国であろうと、ザンビアのような国であろうとだ。こうした国は既にコロナ危機以前から財政がひっ迫しており、今や破綻に向かって全力で突き進んでいる。

しかし最も富裕な国であっても免れることはないだろう。債務が拡大すればドイツや米国ですら最上級の「トリプルA」債務格付けを失う可能性はある。一方で各国政府は中央銀行に対し、借入コスト抑制や場合によっては直接の財政ファイナンスで向こう何年にもわたり依存を強めるだろう。

パインブリッジ・インベストメンツのマルチ資産グローバルヘッド、マイク・ケリー氏は「過去を振り返れば、国が債務水準の増大を続けると、必ず物事が変化を迎えている」と指摘。新型コロナ危機のため世界は、2016─19年にようやく脱却し始めていた「低成長のわな」に逆戻りしようとしているとした。「各国の政策担当者にとって、まるで一夜にして出来上がってしまった対GDPでの大規模な債務比率の構造の中で、経済成長の道を見つけることが今後、難題になる」

今のところ今年の世界経済見通しは5─6%のマイナス成長となっており、追加の借り入れや財政支出は一種の命綱だ。国際通貨基金(IMF)の予想によると、今年の世界の公的債務の対GDP比は約10%と、昨年の4%未満から跳ね上がる。

欧州の経済大国ドイツですら、13年以来で初めてとなる新規借り入れに着手している。米財務省の第2・四半期の借入額は約3兆ドルと、これまでの最多額の5倍以上に膨れ上がる見込みだ。

米議会予算局(CBO)によると、今年の米連邦政府の公的債務は対GDP比が100%と、1940年代以来の高水準になる。ドイツ銀行の試算では30年までに125%に近づく。19年度には79%だった。

しかし、国の債務返済額がどんどん拡大し始めれば、最終的には債務は経済成長の足を引っ張り得る。これは発展途上国が幾度となく繰り返してきた道だ。

経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は最近のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙のオンライン会議で、こうした状況で経済成長を加速しようとするのは「既に多額の債務を抱え、さらに債務を積み増しながら、経済の浮揚を図ろうとするようなものだ」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中