最新記事

世界経済

新型コロナ経済対策で巨大化する世界の債務 将来に危険なツケ

2020年5月18日(月)11時55分

量的緩和は必ずしも万能薬にあらず

債務を増大させている国の中には、低金利でやり繰りが可能になるところもあるだろう。例えば日本だ。債務は対GDPでの200%を超えているが、国債を発行するため紙幣を印刷し、その国債は中央銀行が買い入れている。

アムンディの債券ヘッド、エリック・ブラード氏は「金利水準のコントロールと低金利維持の能力は、債務払い費の抑制にとって重要な目安だ」とし、こうしたことはこれからも続いていくとみている。この傾向は米国や欧州でも加速している。両地域では中銀が過剰債務の大半を吸収している。

しかし一部の国々では、平均経済成長率が何年も金利水準を下回り続けている。つまりコロナ危機以前から、対GDPの債務比率の上昇が続いていたことを意味する。

例えば、フランスの資産運用会社カルミニャックのケビン・トゼット氏によると、イタリアは過去5年間も低金利が続いているにもかからず、その恩恵を受けていない。同国の債務比率はGDPの約135%で、これが170%前後まで上昇する可能性も高く、そうした水準は持ちこたえられるものではないという。持ちこたえるには経済の高成長か、欧州連合(EU)加盟国での債務相互負担の実現が必要だというのが、同氏の考えだ。

ピクテ・アセット・マネジメントによると、世界の先進国のうち昨年末時点で債務の持続可能性が最も悪化していたはギリシャで、これにイタリア、日本、ベルギー、英国などが続いていた。もっとも、イタリアや他の南欧諸国には、借り入れの上で安全弁となってくれる欧州中央銀行(ECB)という心強い存在がある。こんなぜいたくは、ほとんどの発展途上国は持ち合わせていない。

10カ国以上の新興国の中銀も、それぞれ独自に量的緩和(QE)に乗り出している。しかし国内貯蓄が大きくないため、ほとんどの国は収支の穴埋めや自国通貨の価値維持のための資金を外国投資家に依存している状態だ。

こうした国の中銀はインフレリスクもあるため、経済成長を支えるため印刷できる紙幣の量も制約されている。UBSの新興市場国ストラテジスト、マニク・ナライン氏によると、ブラジルや南アフリカでは、中銀が国債買い入れを行うと国債のイールドカーブが急勾配になりかねない。「いったい、南アがどうやってGDP比10%の債務払いができるというのか」と指摘、そうした債務は良くても経済成長を押し下げ、場合によっては新たな危機をもたらすとした。

そんな展開になれば、一部の発展途上国は通貨の再切り下げや、新たなインフレサイクルに向かいかねないとアナリストはみている。

ピクテ・アセット・マネジメントのグローバルボンドヘッド、アンドレス・サンチェス・バルカザール氏は「一部の経済規模の大きい発展途上国、例えばトルコ、ブラジル、南アがこうした方向に進んでいるのが心配だ」と述べた。

ブラジルや南アはここ何年も、年間経済成長率が2%に届いていない一方で、金利はそれぞれ14.25%と7%もの高水準だ。

バンク・オブ・アメリカによると、今年末の債務の対GDP比はブラジルが77.2%、南アが64.9%に達する恐れがある。IMFのデータによると、10年前にはそれぞれ約61%、約35%だった。

NN・インベストメント・パートナーズの債券ソリューション部門を率いるエジス・シーマン氏によると、こうした国は債務水準の上昇によって借り入れコストも上がる。「いったいこれは誰が返済するのか。これは長期的な懸念だ」と話した。

(Dhara Ranasinghe記者、Karin Strohecker記者)

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・中国は早くから新型コロナウイルスを知っていたのか?2019年9月26日の「湖北日報」を読み解く
・日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議
・緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相
・ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う


20050519issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中